第17話 カサンドラの祈り
アポロン様、アポロン様、今夜が七夜目、
どうかお姿を現わして、しもべカサンドラに、お教えください。
アキレウスの、弓矢も通さぬ不死身のからだに
ただ一か所、あるという弱点を。
女神テテュスが幼子アキレウスを黄泉に漬けたとき
一か所、泉を浴び損ねたと言い伝えられるその弱点を。
予知姫と
それとも、こんなに願っても聞き届けられないのは
アポロン様の、妻になれという命令に
逆らったからだという
わたくしには身に覚えのないことながら
人なる身で神の妻になど
祈っているうちに、いつか眠ってしまったらしい。
夢をみた。
夢のなかでわたしは竪琴を手にして歌をうたっていた。
大勢の人が周囲にいて、熱心に耳を傾けている気配があった。
そよ風が頬に当たり、広場のようなところにいると分かった。
~このとき、王妃ヘカベ、一計を案じ♬
末の王女ポリュクセネーを呼びよせて言う♬
「アキレウスに使いを出しなさい♬
イーデーの山の麓の♬
アルテミスの神殿で待っていると」♬
また最愛の王子パリスを呼び寄せて言う♬
「アポロン神の銀の矢でアキレウスの♬
右の
女神テテュスが幼子を♬
不死身にせんと黄泉に♬
右の踵を持って漬けた♬
だからそこがアキレウスの弱点♬
トロイアの守護神アポロンの巫女♬
予知姫カサンドラが告げたもの♬」
ここでわたしは竪琴をつま弾く手を休め、一息入れた。
「いいぞー、ホメロス!」
「ホメロス、すばらしいわ!」
歓声を浴びながらわたしは思った。
わたしの名はホメロスだったかしら。
わたしは一体、だれ?
カサンドラ、というのは誰のことだったかしら?
円柱のあいだから、夏の陽がいっぱいに射しこんでいる。
もう日も高いのだった。
「夢だったのね。ホメロスになっていたなんて」
ひとりごちて、そして大変なことに気がつく。
アキレウスの弱点がわかった?
わたしはアポロンの像に向かってそそくさと朝の礼拝を済ませると、脱兎のごとく夢殿を飛び出した。
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