第13話 アマゾンの女王 対 銀の鎧のアキレウス

 長い休戦期間が終わり、戦いが再開された。

 

 新規参入したアマゾン騎馬軍団の戦いぶりには瞠目どうもくすべきものがあった。

 ペンテシレイアを先頭に矢羽状をなして十二神将が続き、一糸乱れずギリシャの軍勢へと分け入っては、おびただしい戦士を血祭りに挙げてゆく。

 女王を先頭に色彩あざやかに突き進むその戦いぶりは、アポロン神の黄金の矢が縦横に死をもたらしてゆくかのような目覚ましさだった。

 そして、ギリシャ勢が支柱と頼むアキレウスは、トロイア王宮での約束どおり、二日たっても三日たっても姿を見せなかった。

 その間、ギリシャ軍本隊の動揺を利して、ヘクトールの率いる別動隊は海岸近く築き上げられた防塁ぼうるいを襲ってギリシャ軍の陣屋に火矢を放ち、大いにギリシャ勢を慌てふためかせた。


 城壁に鈴なりになって観戦していたトロイアの女たちは、アマゾン軍団の大活躍にやんやの喝采かっさいを送った。

 同性の戦いぶりを見ていてもたってもいられなくなり、甲冑を身につけ弓矢と槍を手に取り、戦場へ出てゆこうとする女たちまで出ていた。

 思慮深いアテーネー神殿の長老巫女ティアーノーが、「ペンテシレイアさまは軍神アレースの御息女で特別な方なのですよ」と言って、向こう見ずな女たちを止めなければ、全員が戦場に屍をさらすことになるところだった。

「これなら勝てますわ、カサンドラさま!」

 城壁の上からはるか海岸近くの防塁に煙が上がるのを見やりながら、マルペッサも息を弾まるのだった。


 四日目のこと。押されっぱなしだったギリシャの軍勢にどよめきが起こった。

「アキレウスだ!」

「アキレウスが帰ってきた!」

 風鳴りの音をぬって、どよめきの中の声は口々にこう叫んでいるように聞こえた。

「アキレウスが‥‥」

「まだ約束の一週間もたたないのに‥‥」

 ポリュクセネーとの婚姻はあきらめたのかと思うと、血の気が引いた。

 事実、ギリシャ軍が左右に分かれた間から進み出たのは、銀のよろいに銀のかぶとたくみの神ヘパイストスが手ずから鍛えて贈ったと伝えられる日月を彫り込んだ銀の盾。紛れもないアキレウスだった。

 とー

「アキレウス殿か!アマゾンの女王ペンテシレイア見参!」

 豊かなアルトが戦場に響きわたった。

 男たちの低音とは異なり、風に乗ってどこまでも届く声だった。

 銀の鎧のアキレウスが何か答えたようだった。

 騎馬と徒歩と、二人の戦士は向き合うと、槍をかまえて突進した。

 次の瞬間、アキレウスの槍が女王の豊かな胸をつらぬくー-わたしは思わず目をつぶった。

「カサンドラ様、ほら、見て下さい、互角に戦ってますよ、あのアキレウスと」

 目をひらくと、徒歩と騎馬の二人の戦士は、ちょうど場所を入れ替えてにらみ合っている。

 二度目の激突ーー

「あ、危ない!」盾で槍先を真っ向から受けたペンテシレイアが、どうとばかり落馬した、と思ったところ、クルリと一回転して立ち上がり、何ごともなさげに敵に相対する。見事な体術だった。

「オオーッ」

「キャーア、凄ーい、ペンテシレイア様!」

 敵味方の軍勢からも、城壁の上の女たちからも、惜しみない称賛の声が寄せられる。

 今度は徒歩同士になって、三度目の激突。

「信じられないわ」あの超戦士アキレウスと互角に戦うなんて。では、あの予言は、銀の鎧の戦士と互角のたたかいを演じるという予言は、本当だったのかしら‥‥

 同時に、なにか引っかかるものが、胸の片隅にあった。

「もし、あれが影武者だったとしたら‥‥」

「何を言うのです、カサンドラさま。あの銀の鎧はアキレウス以外には身に付けられないはずですわ」

 わたしのつぶやきを耳ざとく聞きつけたマルペッサが反論する。

「そうかしら‥‥」

 釈然としないながらも、両者の闘いを遠くから眺めているよりほか、ないのだった。

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