17 悪役令嬢、思いに気づく
それから、数日間私とデインはあまり話すことはなかった。
いつ話しかけてくるかなと待っていた。
が、デインから声を掛けてくることはなかった。
デインって意外と頑固なのね。
提案を聞かないと決めた私はデインに対抗するかのように毎日24時まで絵に取り掛かっていた。
デインはきっともうレンとアナスタシアに言ったのだろう。
と思いながら、2人がお茶しに来て、デインがいなくなった丁度いいタイミングの時に聞いてみたのだが。
「え、エステル嬢が倒れた理由? 聞いてないよ」
「え?」
デインは言ってないの…………?
「そういや、エステルにそのことを聞くの忘れていたわね。それで、なんで倒れちゃったのよ。痩せるためにご飯抜いていたとか?」
「いや、そういうのじゃないですけど……」
「そう、もったいぶらずに教えてよ」
キラキラと輝かせた瞳でアナスタシアが詰め寄ってくる。
レン王子も話しなさいと訴えてくるような目を向けてきた。
この2人の感じからするに絵のことは知らないよう。
――――――――はて? デインはまだ話していないのかしら。
と思いつつ、昼から作品作りを始める私。
気づいたときには窓の外は真っ暗になっていた。
もう夜か………時間が経つのは早いわね。
最近、F10ぐらいの小さなキャンバスに絵を描き、パパのコネを使って売ってもらった。
時間をあまりかけずに描いたにも関わらず、すぐ売れたそうだ。
一体、誰が買ってくれたのやら。
でも、買ってもらっているということはちょっとずつ進めているのかもしれないわ。
私は右手に持った筆を天井に突き上げる。
よしっ!
いっぱい描くぞっ!
そして、最近新しく作り始めた作品に色を乗せた。
緑がほんのり入る青い空と大木の世界樹を見つけた妖精が描かれたキャンバスに。
★★★★★★★★
キィー。
ドアが開く音が少ししたような気がした。
しかし、ノリ乗っているので、扉の方に向くことはしない。
きっと、風で扉が開いたのだろう。
筆をちゃぷっと油につけると同時に、机に置かれた時計にちらりと目をやる。短針は12の所を差しそうになっていた。
あと、数分で24時。
ああ、時間が進むのは早い。
今日ぐらい少し時間は過ぎてもいいよね?
明日、すぐに引き上げたらいいだけだし。
筆先にまた違う絵の具をつけ、キャンバスに向こうとした瞬間、
「!」
背後から誰かに抱きしめられた。
不審者!?
クイッと後ろを見ると、そこにはシルクのような輝く白い髪。
すぐに誰か分かった。
「デイン……」
「姉さん、お願いだからもう描くのはやめて」
デインは小さく呟く。
その声は元気がなかった。
「止めることはできないわよ。有名な画家になるんだから」
「そうじゃなくて、今日の活動はもうやめようってこと」
「でも……」
「僕は姉さんの夢を応援してるよ。姉さんに時間がないことも分かってる。でも……」
抱きしめる力がぎゅぅと強くなる。
彼はこちらに顔を向けてくれない。
「姉さんが倒れたときは辛かった……もう倒れてほしくない」
「……」
「だから、僕は脅してまでも提案を聞いてもらおうと思ったんだ」
なぜデインがあんなことを言ってきたのか、考えてなかった。
…………私のことを心配して言ったのね。
デインの手を振り払い、彼の方に正面を向ける。
そして、彼をぎゅっと抱きしめてあげた。
「!!」
「デイン、私のことを心配してくれて提案してくれたんだね」
抱きしめたままデインの頭を優しく撫でる。
一時して解放しあげると、彼の頬はほんのり赤く染まっていた。
ぎゅっとし過ぎた?
心配になってデインの様子を見ていると、彼はなぜか自分の顔を隠す。
そして、ほんの少ししてニコリと笑った。
「あと、提案したのはもう1つ理由があって、効率よく描けないとプロは無理かなと思ったんだ。だから、体調管理も姉さんが有名な画家になる上で必要かなと思って」
「……ほう。なるほど」
確かにそうだ。
健康じゃないと、書けるものも書けない。
ああ、デインはなんていいマネージャーさんだ。
すると、デインはこちらに綺麗な手をすっと差し出す。
「姉さん、今日は寝よう。明日、頑張ればいいから」
「そうね」
彼の手を取った私は席を立ち、そして、2人でアトリエの部屋を出た。
デインは私を一番に支えてくれる最高の弟。
本当にありがたい。大好きだわ。
デインと並んで廊下を歩いていく。
「デイン、心配してくれてありがとう」
私がそう感謝すると、デインは天使のような笑みを返してくれた。
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