16 悪役令嬢、食い違う

 「大事な話?」

 「そう。まぁ、話というより僕からの提案かな? ともかく、大事なこと」

 

 提案?

 真顔になっていたデインは少し微笑む。

 一体何を提案されるんだろう? 

 引きこもり計画の改善案? 


 それは私にとって一番大事なのだけれど。

 先ほど開けた窓からすぅーと風が流れ、私とデインの間を通る。

 彼の白く輝く髪がさらりとなびいた。

 

 「姉さんさ」

 「うん」

 「今回、自分の限界値超えて行動してたでしょ?」

 「う、うん」

 

 確かにそうね。

 時間制限タイムリミットのことで頭一杯になって、焦っていたわ。

 

 「時間がないあまり、姉さんが大切にしていた睡眠時間まで削ってやってた。でも、無理して、姉さんは倒れた」

 「…………」

 

 言うことないわ。事実だもの。

 すると、デインはスーハァーと息をつく。

 まるで覚悟を決めたように。


 「だから、明日から23時以降はアトリエ立ち入り禁止しよ。夜遅くまで絵を描かない方がいいと思うんだ」 

 「なっ」

 

 何を言っているの!? デイン!?

 私は思わず息を飲む。


 2年後の入学までに、国中で名を知れた有名な画家になる必要がある。

 2年ってかなりあるようでそんなに時間はない。

 それなのにデインは使える時間をさらに減らそうっていうの?

 それは可愛い弟の言うことであっても聞けないわっ!

 

 「それは無理よ、デイン。入学までに国中で名の知れた画家にならないといけないのよ? デインの提案は賛成できないわ」

 「それはそうだけど……でも、姉さんの体が壊れたら元も子もないよ」

 「むぅ……そうね。でも、せめて24時にして」

 

 たった1時間だけよ、それくらいの時間なら睡眠はとれているはず。

 すると、デインはそっぽを向いて、手で×を作る。

 

 「ダメ。いつもの姉さんは23時には引き上げていたから、それは変えられない。もし、もしね、姉さんがこの提案に乗らないというのなら…………」

 「いうのなら??」

 「レンとアナスタシアに姉さんが絵を描いてることを言う。倒れた原因についても全部話す」

 「!」

 

 デインはウソがない真っすぐな目でそう言った。

 部屋はしんとし、外から小鳥のさえずりが聞こえる。

 これ、完全に脅しじゃないっ!? 

 

 「ふんっ! 言ったらいいわ。私は絵を描くわ」


 私はデインから顔を背け、腕を組む。

 一方、デインは立ち上がり、扉の方に歩き始めた。

 私に背を向けて。

 扉の前まで行くと、私の方をちらりと横目で見て、

 

 「……分かった。僕は2人に言うからね」

 「…………」

 

 それだけ言って、デインは部屋を出ていった。

 私1人なった部屋は凪のように静かになる。


 今の私は時間のとの勝負でできれば1分も無駄にしたくない。

 ひたすら描いて、じゃんじゃん作品を生み出す。

 質を上げて、名前を知ってもらう。


 最近はこの国だけを拠点に考えていたけど、他の国ににも私の名前を知ってもらえればいいなんて考えもある。

 その方が名前を知ってもらえるからね。

 それなのにデインは……。


 溜息をつくと、私は布団から出て、ベッドから足を下ろす。

 そして、いつもの汚れていいワンピースに着替えた私は部屋を出た。

 この日、初めてデインと意見が合わなかった。

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