3 悪役令嬢、流行を目にする
私は毎日アトリエに足を運び、食事、お風呂、睡眠などの生活するに置いて必要な時間以外は全て絵に捧げていた。たまにご飯を抜くことがあり、心配したママが扉をひたすら叩いてきたこともあったけど。
前世でも絵を描き続けていたので、技術は衰えていなかった。安心、安心。
でも、ここで描かれている絵画ってどんな感じなんだろう?
私が始めに描いた絵は妖精である少女が天空の島で魔法使いの少年に出会うシーンを描いたもの。
私の作品の特徴としてこのように1枚の絵にファンタジー的なストーリーがある。
まぁ、それが今の世界で評価されるかは分かんないんだよね。
絵を描くにおいて、自分が楽しく描くことも大切ではあるが、有名な画家になるにはそれだけでは足りない。世間の流行に乗ったもの、流行を先駆けるものを描かなければ、人の目に留まることはなかなかないのだ。
さて、どうしたものか。
最近、パパが持ってきてくれた本をペラペラとめくっていく。
その本には様々な作品が乗せられていた。
この世界には魔法があるらしく、この本も魔法を駆使して写真が撮られたものだとか。
よく考えれば、あの乙女ゲームにも魔法が使われていたわね。
前世の記憶が正しければ、魔法が使えるのはこの国ではごくわずかの者だけ。魔法が使えると言っても1人1人属性があり、その属性の魔法しか使えない。
私には魔法があるみたいだけど、一体何の魔法なのか分からないままだった。
手に意識を集中させるも何も起きない。私、本当に魔法があるのかしら。
ママとパパは魔法が使えるようだし、私もきっと使えるはずなんだけど、何も起こらないんだったら仕方ないわね。
別に絵を描くのに魔法は必要ないわけだし。
私は自分の手から本の方に目を戻す。
本にはあるのは前世でも見たルネサンス期に描かれたものばかりだった。
「ヴィーナスの誕生」みたいな宗教的なものでも描けばいいのかしら。
ルネサンス期の画家ボッティチェリの代表作「ヴィーナスの誕生」
その作品には貝殻の上に立つほぼ全裸のヴィーナス。彼女のサイドには天使と女性が描かれている。
ルネサンス期の作品には「ヴィーナスの誕生」だけでなく、ボッティチェリの作品、また他の人の作品にもほぼ全裸と言える人々が描かれていた。
全裸か……まぁ描けるけど。
私の心中にはどこか違和感があった。
そんなんじゃダメという声が心の中で叫んでいる。
前世ではずっと妖精とか、天使とか幻想的な風景とか描くことが多かった。色とりどりで鮮やかな作品。裸眼で見ると木は緑という認識しかないが、その緑の中にピンクやオレンジの層を作ることで雰囲気を明るくしていた。
前世で描いていた作品は今の宗教が主となっている流行とはちょっと違うかもしれない。
でも。
………………。
流行は私が先駆ければいいか。
私はノートと鉛筆を取ってアイデアスケッチを始めた。
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