2 悪役令嬢、不登校を宣言する

 「エステルっ! 引き込もるってどういうこと!」

 

 自分の命を守るため引きこもりを決意した後、私は両親を呼び出して学園に行かないことを話した。

 案の定、ママは形相を変え、鬼に変身していた。


 怖っ。

 こりゃあ、エステルが親に逆らうことができないのも無理ないわ。

 ママの隣にいるパパは怒っている様子はなく、ママが恐ろしいのかじっと黙っていた。周りで待機しているメイドたちも困り顔でこちらを見ている。

 味方はいないってことね……。


 でも。

 それでも私は自分が一番可愛いので、ママに反抗する。

 

 「私は学園に行かないの!」

 「あなた、そんな先にことを言ってるの!? 学園に行くのは2年後でしょう!?」

 「だから、その2年後のことを言ってるの! 私は学園に行かない!」

 「エステル、あなた一体どうしちゃったの? あんなにいい子だったじゃない!? 何があったていうの!?」

 「気が変わっただけよ! 私はしたいことがあるの!」

 

 好きなこと……絵を描いて生きていきたい。

 

 「したいことって……学園に行きながらでもできるでしょう?」

 「できない」

 

 学園に行ったら死んじゃうからできない。

 

 「画家になりたいのっ!」

 「画家ですってぇ!?」

 

 ママの眉間にしわが増えていく。パパはそれを察知したのか、ママから離れるように後ろへ後ろへと遠ざかっていた。

 私、ママの逆鱗に触れてしまったわ。

 

 「あなた! ふざけているのっ! あなたは王子の婚約者なのよ! 画家になるくらいなら学園に行きなさい!」

 

 わあぁぁーーーーーーーーーー!! 

 ママ、ガチギレじゃん! 

 怖い! 

 怖いけど!

 私は鬼女のママに指を指す。

 

 「だったら、画家として有名になって仕事し始めたら学園に行かなくてもいいでしょ!」

 「なっ!」

 「私が学園に入学するまでの2年間で有名な画家になれれば文句はないでしょ!」


 今、私の年は13歳。学園に入学するのは15歳の時。タイムリミットは2年間。自分でもそんな短期間でできるとは思わないけど、やるしかない。

 死にたくないんだよ!

 すると、私の熱意が届いたのか、ママははぁと溜息をつく。

 

 「……いいわ。やってみなさい。それだけ言うのなら」

 

 ママは折れたのか、そう言って私の意見を了承してくれた。

 多分、画家になれると思っていないのだろうけど。

 でも、ママ。許してくれてありがとう。

 私、自分の命を守るためにも、ステラート家のためにも頑張るわ。

 絶対にこの国で一番の画家になってやるんだから!

 

 

 

 ★★★★★★★★

 

 

 

 「これで、いいのかしら……」

 「うん。ありがとう。ママ」

 

 ママは私が画家になることにかなり反対してくれていたけど、必要なものは用意してくれた。

 筆にキャンバス、ナイフ、パレットと木炭、そして、油絵用の絵の具。急な話だったので最低限のものだけ用意してもらった。

 前世ではアクリルガッシュを専門としていたけれど、油絵も少し触れていたので問題はない。

 私は動きやすい丈が短めのワンピースに着替え、エプロンを着る。

 アトリエとなる部屋に入る前に、私はクルリと振り返る。ママとパパは部屋の前で送るように立っていた。

 

 「パパ! ママ! 私が許可しない限りこの部屋を開けないでね!」

 

 私はそう言い張ると扉を閉めた。その後すぐにバンバンと扉を叩いてきたような気がしたけれど、知らないフリをして真っ白なキャンバスに近づく。

 さぁ、ここからね。

 丸椅子に座った私は木炭を手に取る。

 そして、前世で描き途中にしてしまった作品を思い出しながら下書きを始めた。

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