2. 妹の電話


「もしもし」


 電話が鳴った。真梨香からなら飛びついたが、そうではなかった。


 当たり前の話だ。真梨香はもう、自由な人じゃない。


「よっほー兄貴」


「今5時なんだけど」


「5時って夕方? 朝方?」


「朝だよ」


「ほーん」


 電話口の向こうから聞こえる声は相変わらずで、少し安堵する。


「で、なんだよ」


「1回日本に帰ろうかと思ってさぁ。兄貴今何してるんだっけ?」


「……旅人」


「は? 私のパクんなし」


「そんなんじゃねえよ」


 兄妹そろって社会不適合者ってだけさ。


「……お前、T大卒業したエリートだったろ。なんでフラフラしてんだ」


「フラフラなんて失礼な。何とかやってますよん。私はさ、」


 突然電話が遠くなり、Hi、と挨拶が聞こえた。


「ごめんごめん、私はさ、」


「お前今どこ?」


「聞けし。私はエリートとか霞が関とか、そんなことどうでもよかったんだよ。親のいいなりの人生から解き放たれたかった。試験問題が求めてること以外の正解を見つけ出したかったの。当時、それを言い出せなかった」


「見つかったのか? その答え、ってやつ」


「ああそういや兄貴、結婚式があるって言ってなかった? 誰の? 楽しかった?」


 由芽は、俺の問いかけを無視した。いつものように、平然と。

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