500の世界
@moonbird1
1. 式場のキス
「ねぇ、キスして」
「できるわけないだろ」
「キスしてくれなきゃ」
彼女が、身を寄せた。もう少しで、唇が当たってしまいそうな距離。長いまつげも、高く美しい鼻も、そして紅く官能的な唇も、すぐ、そばにある。
「あなたを呪います」
僕は生唾を飲み込んだ。口の中から次々と分泌されるそれは、自分の欲望を体現していることに気が付いていた。
「自分のしてることがどんなことか分かってるのか。これは不貞だ。君は名家のお嬢様なんだぞ」
そうだ、僕は彼女を止めなければならない。それが自分の本心ではないとしても。
「ご歓談中失礼いたします。咲さま、控室にて神童家の方もお待ちでございますのであちらのお部屋に――」
「行きなよ、真梨香」
「……もう少し、待ってもらえませんか」
女性は少し狼狽しているようだった。僕は後ずさりをするようにして真梨香から離れた。
「か、かしこまりました。式のお時間もありますので、お早めにお願いいたします」
扉が閉められた。静寂が訪れる。
「あの扉を出たら、私は好きでもない男のものになる。そんなの嫌だよ。私はあなたを愛してる。だから――」
彼女は強引に僕の唇に顔を寄せた。甘い蜜のような味がした。いけない、リンゴの味。
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