タンポポ
ミュウ@ミウ
タンポポ
四月
とある兄妹が広場に生えたタンポポを見て話をしていました。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「なんだ?」
「私たちもいずれはああなるのかな?」
「そうじゃないか? 知らないけど」
白い綿毛をつけたタンポポが春風に煽られて揺れています。
「そうしたら、私達離れ離れになるの?」
「俺はせいせいするけどね」
「私は嫌だよ」
少女は今にも泣き出しそうな声で言いました。お兄さんは少女の頭をポンポンと撫でて、宥めます。
「けどよ。俺たちにはどうすることもできないだろう」
「そうだけど」
風が一段と強くなり、綿毛の一つが重力に逆らうように天高く飛んでいきました。ふわふわと風に乗って、遠くへ遠くへ飛んでいきます。やがて、少女たちの視界から消えました。
「私たちもいずれはああなるだよね?」
「ああなったら、俺たちは一生離れ離れだな」
「そんなの嫌だ」
風向きが変わったのでしょう。ふわふわと飛んでいた綿毛がまたしても少女たち視界に映りこみました。今度は重力に従うようにゆらゆらと揺れながらゆっくりと茶色い地面に向けて落ちていきます。
「ああなることもあるかららあまり期待できないけどな」
「そうしたら、一生お兄ちゃんに養ってもらわないと」
「嫌だよ」
「ケチ」
風は気まぐれの様でまたしても強風が吹きました。すると、周囲の白い綿毛が一斉に飛び散り、ぐんぐんと天高く昇っていくのです。
綿毛はやがて燦燦と照り付ける太陽の光を遮り、白い世界が少女たちの視界を奪います。
木漏れ日のような光が少女たちの元に届きます。
「わぁ。綺麗」
「綺麗だな」
兄弟は幻想的な景色を見て大はしゃぎ。今にも飛び出しそうな勢いで体を左右に揺らします。
「ねえ?」
「なんだ?」
「やっぱりやめる」
少女は何かを言いたかったのでしょうが、お兄さんの顔を見てから、急に黙り込み空を眺めました。
「なんだよそれ」
風は止むことを知らず、視界が開けてきます。
青い空に白い雲、そして燦燦と照り付ける太陽が現れました。
×××
6月
兄弟はすっかり大きくなりました。広場の景色も春から夏に移り変わろうとしています。
青々とした草がボーボーに生えて、タンポポ畑だった広場がいつの間にか、雑草だらけになっています。
兄弟は今日も広場の草木を見て話しています。
「ねえ、私達はいつ飛べるの?」
「さあ?」
「怖いよ私」
「大丈夫だよ」
空は厚い黒雲が覆っており、今にも雨が降り出しそうです。兄が妹を宥めながら空を見見上げていると、ポツンと水滴が乗りました。
「雨だ」
「また飛べなくなっちゃうよ」
「最近多いな」
「そうだね」
「とりあえず、雨宿りをしよう」
「うん」
少女たちは大きな傘を開いて下に入り込み、雨をしのぎました。傘に打ち付けられる音は大きく、かなりの大粒だとわかります。雨音に紛れて、ゴゴゴと言う破裂音も聞こえてきます。
「怖いよ」
「大丈夫だ」
「う、うん」
しばらくして、音がやみました。
「終わった?」
「止んだな」
傘を閉じて、空を見てみると、厚い黒雲はすっかりとどこかへ流れていき、広々とした青空が少女たちの視界に映りました。
「わぁ、綺麗だね」
「そうだな」
すると、どこからともなく突風が吹きました。
風は妹を天高く昇らせます。
「じゃあねお兄ちゃん」
「じゃあな。やっとせいせいする」
「私も」
「じゃあな」
少女はクルリと空中で一回転をして、風に運ばれました。最後に、兄の方を見て「ありがとう。お兄ちゃん」笑いました。
少女の行く先には、大きな虹がかかっています。
風が一段と強くなり、少女はふわふわと風に乗って、遠くへ遠くへ飛んでいきます。
やがて、少女は兄の視界から消えました。
終
タンポポ ミュウ@ミウ @casio_miu
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