バージョン5.2 戦支度

 スマートシティーの流通は通信販売が主流。日曜雑貨から高級品まで幅広い。また『いいね!』のやりとりを前提にしたハンドメイド製品も密かな人気となっている。



 清は1階に降りた。


「あっ、清くん! こっちよーっ」

「あきさん! 今朝振りーっ」


 清に向かって大きく手を振るあき。おっぱいも大きく揺れた。そして、清が合流すると、御遷御殿にあるパネーパネルに連れてってとせがんだ。清は言われた通りにみんなを連れて行った。


「さあさあ。皆さん、こちらに並んでくださいね!」


 御遷御殿にはパネーパネルが6枚ある。その全てに行列ができた。一緒に便所掃除をすると同意した面々は列の後方に並び、ご新規様が先に使った。清に対しては遠慮はしないと決めていた高井姉妹とこの後に仕事があるお世話係の計5人が最初にパネーパネルを操った。


「ただなら、使わない手はないわよねぇ。って! こ、これは……。」

「完全無料って、心うきうきするわっ! えーっ! これって意料無限!」


 ここでの意料無限は、想像を絶する結果を得たというような意味。高井姉妹もパネーパネルが提供する品に舌を巻いたということだ。高井まなこは、このようにして自分の気持ちを四文字熟語にするのが大好き。


「あの高井姉妹が大喜びだなんて、一体どんな品が頼め……。」

「どうしたの、ゆり? 急に黙っ……。」


 みれいはゆりが急に黙ったので心配したのだが、その直後に自身も黙り込むという高等テクニックを駆使して、パネーパネルのすごさを表現した。


「……こっ、これはっ!」

「……こんなものまで!」

「……パッパネー……。」


 その後もパネーパネルの利用者のことごとくが、その性能の高さと品揃えの良さを感嘆とともに賞賛した。ただ1人、小沢ひかりをのぞいて。


(なっ、何なのよっ! この物量じゃ、かすみ様だって落ちるに決まってるわ!)


 ひかりは手を震わせながらも、パネーパネルを操作した。そしてかすみと過ごす海水浴場でのひとときを、強くイメージしていた。


(早くかすみ様をお助けしないと、このままじゃブサ王にかすみ様が犯されちゃう)


 驚きを押し殺して、ひかりは1人、清に抗う決心をした。だがその消費ポイントは、清も含めた33人中の首位だった。かすみは27位タイ、清は32位。最下位は佐智子。


 お世話係の3人は既に御遷御殿を出発していた。清のバスには残りの30人全員が乗り込んだ。清は最後方の真ん中の王様の席に、その脇をあきとかすみが占めた。かすみの直ぐ隣はひかり。じゅんは車酔いが酷いのを隠してガイド役を買って出て、1番前に腰掛けた。


(ひかりさんって、余程かすみさんが好きなんだな……。)


「あっ、ずるーい。ひかりっち、清さんの側ゲットしてる! 変わってよーっ!」

「あっ、あの。こういうのって、早い者勝ちじゃないですか?」

「えーっ。そんなの聞いてなぁーいっ!」

「いくらさくらさんの頼みでも、駄目なものは駄目です!」


 かすみの直ぐ横は清からも3番目に近い。そこにちゃっかりと座ったひかりが、実は自分に対しての好感度が高くないことを知っている清は、複雑な気持ちでそれを眺めた。全員が席に着くと、バスは発進。横揺れがなく快適。


 ーーピーッ!ーー


 出発して1分足らず、じゅんが勢い良く笛を吹いた。


「……着き……ました……。」


 バスは最高速度の時速450kmに達することなく、目的地である休憩室のある大きな建物の前に着いた。

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