バージョン3.3 便所の秘密

 YKTNには花火の打ち上げ台が100ヶ所ある。それらは全てゴセンゴテンの南側にある。ゴセンゴテンの6階南正面にある通称ヤリ部屋からは花火がよく見える。



 清はまさに生唾をゴクリと飲み込んだ。清は攻略対象にあきを選んだ。そして、2分の1にまで小さくされたあきを模した単なるモノを握りしめ、その上着を脱がせたところで固まった。


「本来であれば、ぱっくんしていただくのですが、このサイズでは難しいですね」

「あっ、あぁっ!」

「仕方ありません。ここは、つんつんしていただくということにしましょう!」

「つっ、つんつん!」


 清はもう1度生唾をゴクリと飲み込み、同時に鼻の穴を大きくした。AIが清に提示した攻略対象の指名方法、それは、住人を模した単なるモノの向かって右側のおっぱいにある淡いピンク色の突起を右手人差し指でつんつんすることだった。


「そうです。つんつんです! 思い切って、どうぞ!」

「……よしっ!」


 AIに急かされて、清は自分に言い聞かせた。これは単なるモノに過ぎないと。そして、ついにつんつんを実行した。それは、小さくとも柔らかい。清が気持ちいい思いをしているうちに3D映像装置の中に、あきの今が映し出された。


「べっ、便所……そうか。あきさん、お腹の調子がまだ悪いんだ」

「そのようですね!」

「でも、便所内の撮影って、できないんじゃないの」

「できますよ。カメラがありますから!」

「そっ、そうなの! それって犯罪行為なんじゃないのっ!」

「いいえ。撮影は許可されています」

「知らなかった! けど、知らないの俺だけじゃないと思うけど」

「そうですね。いつのまにかすり替わっていますからね」

「すり替わっているって、どういうこと?」

「禁止されているのは撮影ではなく映像解析なのです」


 AIはしれっと言った。実際、全てのスマートシティーの便所には便器1基につき少なくとも2つのカメラが設置されている。それらは人目につかないように工夫されているし、映像は全く解析されないから流出もしない。だから誰も気付かないだけ。清は顔を真っ赤にした。今までの便所での行為の全てをAIに見られていたことになるから。


「そっ、そうだったんだ……でもじゃあどうして今は映像が見れるの」

「それは、清様がそうしろと命じたからです」

「俺は、命じた覚えはないけど……?」

「清様、つんつんしましたよねっ!」

「そっ、それーっ!」

「つんつんしたということは、攻略対象の今を映せということです」

「そうだったんだ……。」


 清は、内心ほっとしていた。清が命じない限り、清の便所での行動は決して明るみに出ないということが分かったから。


「清様、これは千載一遇のチャンスですよ!」

「チャンス?」

「はい。汚れた便器と攻略対象が一緒なんですから」

「そ、それもそうかも知れない! 場所は?」

「ちょうどこの下、1階です。先ずはエレベーターへ行きましょう!」

「でも、エレベーターはどこ?」

「全て私が案内いたします。さぁ、便所掃除王、出撃せよ!」

「ラジャー!」


 清は走りはじめた。そして、走りながらふと思った。便所の中が完全なプライベート空間だと思い込んでいるのはあきも同じなはず。だとすれば、急に現れて一緒に便所掃除をしようって言ったら、どう思われるだろう。きっとノゾキを疑われるのではないか、と。だから清はAIに相談した。AIの出した結論は、意外にも体育会系のものだった。


「それは、当たって砕けろってヤツですよ!」

「……。」


 清は思った。攻略は、自分の頭でやらないといけないんだな、と。


 エレベーターを降りた清に、AIは誰にも見つからずに攻略対象に接触できるよう案内した。そしてその間にAIは、清にいくつかのアドバイスを贈った。清はそれを頷きながら聞き、AIが決めた廊下をAIが決めた速度で歩いた。清が便所の前にたどり着いたとき、ちょうどあきが便所を出るところだった。


「あっあきさん!」


 清は思わずその名を叫んだ。


「清さん! どうしよう……私たち、とんでもない都市に来ちゃったわ!」

「えっ!」


 清は驚いた。あきがAIの予測通りの発言をしたから。


「清さんって、随分呑気なのねぇ!」

「あははははっ。よく言われるんだ。今は便所掃除のことしか考えられないんだ」


 これも全て、AIの予測通りだった。清が棒読みになったのも。


「ふふふっ、便所掃除王の御手洗清ってことね!」

「そう。只今パートナーを絶賛募集中なんだ!」

「へぇー、そうなの……。」


 あきは清に身体を寄せた。驚くことに、これもAIの予測通りだった。AIはそのあとは待てば良いとアドバイスしていた。だから清は待った。すると……。


「……パートナーって、私にもなれる……の?」

「もっ、もちろん……だよ……早速、2人で便所掃除をしよう!」

「うん。こっちは、私がやるわっ!」


 あきは自分が使用したばかりの便所を指差してそう言った。そのときには、もう清に驚きはなかった。あるのは、ビターエンド以上確定の喜び。


「じゃあ、そっちの便所に掃除道具が入っているから、とってきてくれる」


 清が最初に便所掃除するのをあきが見学し、あきは見様見真似で便所掃除をした。それが終わったところで、清が言った。


「最後は、身体をよく洗わないと。俺の部屋にシャワーがあるから浴びるといいよ」

「えっ、でも。汚れたまま清くんの部屋になんか、行けないよ!」

「だったら、良いシャワールームがあるよ。着替えも頼める」

「ほっ、本当! だったらそっちが良いな!」


 あきは手を合わせながら拝む仕草で言った。


「じゃあ、行こうか!」


 そう言って清は左手を腰に当てた。ひじと腹部にできた空間は即座にあきのおっぱいによって埋められた。

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