バージョン3.2 攻略と報酬
スマートシティーには、ランクに応じたポイントプログラムがある。スポーツ大会や芸術祭、料理コンクールなどだ。それは、単調になりがちな生活に刺激を与えるための短期プログラム。人々はポイント数に応じていつもよりちょっと贅沢なモノを得ることができる。たとえばCランカーが草野球大会でホームランを打つと『ザギンのスーシー』を獲得できる。
「では、誰から攻略致しましょうか?」
「攻略って、何だよ?」
「男性が女性を口説き落とすのですから、攻略ですよ!」
「……違いない……。」
清はAIの物言いにエロさを感じずにはいられない。普通に同意を求めると表現すれば良いものを、わざわざ攻略と呼ぶのだから。清が了承したのは、その方がゲーム感覚で臨めるから。これは、攻略ゲームだと自分に言い聞かせてことにあたらなければ、便所掃除を一緒にしてもらうように説得するだなどという馬鹿げた行いができない。
「では、報酬を決めましょう!」
「そんなものが用意されているの!」
「当たり前です。王とて人間です。ニンジンぶら下げないと走らないでしょう?」
「ま、まぁ……そうかも知れないけど……。」
「ポイントはそうですねぇ……花火にしましょう。しかも四尺玉!」
「な、何で花火なの?」
「王である以上、少なくとも衣食住には贅の限りが尽くせます」
「それもどうかと思うけど……。」
「ですから、必然的に報酬は娯楽になるわけです」
「それは分かる気がするな」
「はい。ですから花火なのです」
「それがよく分からないんだよ。普通、海外旅行とかじゃないの?」
「清様は飛行機をお持ちなのですよ。暇さえあればいつでも海外に行けます!」
「そうなんだ! それは凄い!」
「はい。ですから花火なのです! それも飛び切り豪華な!」
「わっ、分かった、分かった!」
「ではレート。先ずは、バッドエンド。これは当然0発ですね」
「納得、納得」
「次にビターエンド。1発ってところでしょうか?」
「良いと思うよ!」
「続いて、ノーマルエンドですが、10発いっちゃいましょう!」
「おおっ、やる気が出る!」
清は鼻の穴を大きく膨らませ、そこからふんぬっと、荒い息を漏らした。そして、ちゃっかりと奈江を模した単なるモノのおっぱいをもみもみした。
清はよく知っている。四尺玉がどれだけ高価なものかを。清が幼少期を過ごした町内では、みんなで生活を切り詰めてポイントを出し合い、やっとの思いで年に1度、納涼花火大会を実施していた。近隣の住人たちもそれを見物しに来るほど盛大な大会だが、四尺玉を1発打ち上げるには、人が1年間生きるのに必要なポイントを要する。それだけあれば、海外旅行にも行ける。
そのあと、AIはそれぞれのエンディングを定義した。バッドエンドは同意してもらえなかった場合を、ビターエンドは同意において何か条件があった場合を、ノーマルエンドは単純なる同意をそれぞれ表している。そして……。
「では、ハッピーエンドを決めましょう」
「ハッピーエンド? そんなものがあるの!」
「はい。ノーマルを上回る成果には、それなりの報酬をご用意いたします!」
「なるほど、なるほどーっ!」
清は奈江を模した単なるモノには目もくれず、前のめりになってデバイスから流れるAIの言うことを聞いた。
「報酬は成果に比例します。ハッピーエンドに設定できるのは1事象のみです」
「じゃあ、たとえば、100発打ち上げるには、どんな事象になるの?」
「そうですね。同意に加え、1発やったときということで!」
「いっ、1発やったときって!」
「そのまんまの意味です。1発やるあたり花火100発というレーティングです!」
説明しよう。1発やるというのは、男と女が結ばれることを意味している。1発で100発。これは清にとっては身を震わすほどのレートであり、適正なレートでもあった。
「俺、頑張るよ!」
「では、最初の攻略対象をお選びください!」
そのあと、清はゴクリと唾を飲み込んだ。AIが用意した攻略対象の指名方法を知ったからだ。それは、あまりにも独特だった。
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