バージョン2 便所掃除王

バージョン2.1 噂の人

 スマートシティーの種類は、青春謳歌型・子育支援型・娯楽満喫型・壮年充実型・老人介護型・余暇観光型が主流である。数あるスマートシティーの中でも、YKTNは特別な種類だ。YKTNは青春謳歌型のようにも思えるが、実際は世にも珍しい、王都御殿型の都市なのだ。SSSランカーが誕生した際にだけそう呼ばれ運用される。それまでは、青春期前半の女性SSランカー専用都市として運用されている。



 丸い方の島の港の手前にある高台に2人の女性がいた。長細い方の島から出た小型ボートを見つめている。1人は相田佐智子、もう1人は佐智子と同い年で大親友の岡村晴香。2人は今朝、便所掃除係をクビになった。


「あれがそうかなぁ……。」


 晴香が言った。晴香は新しい便所掃除係の顔を見ようと、佐智子に誘われてこの港まで来たのだ。


「いや、違うと思うわ……。」


 勘の鋭い佐智子が言った。微かに望む細長い方の島には、大きな船が停泊している。この日は何故か船舶の航行は禁止。島から離れてその船の近くに行くことはできない。だが、目測では全長1500mを優に超える大型船だ。佐智子はあの大型船舶が港に来たのは、便所掃除係と関係があると確信していた。だから、あの小型ボートは別の誰かを乗せているに違いないと思った。


「でも、さっきの飛行機、あれは便所掃除係を載せてたんじゃないの」

「たしかに、あれも大きかったわ。だからこそ、釣り合わないのよ」

「あの小型ボートに乗ってるのは、もしかしたら別の人じゃないかってこと?」

「その線はありかも」


 そうこう言っているうちに、小型ボートが港に着いた。降りてきたのは女性。佐智子はほっと安堵し、晴香と一緒に手を振って迎えた。2人のおっぱいは微動だにしなかったが、手を振り返す向こうの女性のおっぱいはぷるんぷるんと揺れた。あきである。おっぱいが揺れるのを見て、佐智子と晴香がぼそりと言った。


「大きいわね……。」

「本物かしら……。」

「ここに来たんだから、さすがに本物だろう……。」


 向こう側、あきの方は、AIを相手に逆のことを弾むように会話していた。


「随分と、小さい方たちね!」

「あき様と比べると、取るに足りませんよ!」


 それっきりあきのAIが黙った。2人の声が聞こえる距離になったからだ。3人は、挨拶を交わした。そのときに、佐智子はここへ来た目的を明かした。


「べっ、便所掃除係、ですか?」

「そうよ。お出迎えってわけ」

「この都市に住むための私に課された条件だったのに、お役御免になったの」


 そして、1年後には追い出されてしまう。佐智子はそう続けようと思っていたが、それが言えなかった。口にするのも嫌で仕方ない。


「飛行機に同乗した方がいますが、その方はとても立派な男性でした」

「だっ、男性ですって……。」

「あの、大きいのに乗ったの!」


 あきの発言に対する2人の反応は対照的で、佐智子は身震いし晴香は狂喜した。あきははじめに嫌悪を示した佐智子に答えた。


「はい。でも、とても心の優しいお方で……。」

「……そっ、そんなの、信じられるわけない!」


 佐智子はあきが言い終わる前から頭ごなしに否定した。佐智子が感情的になってしまうのには理由がある。前の都市で佐智子は5人の異性と関係を持った。そのいずれも当時の佐智子と同じSランカー。はじめは互いの同意のもとで関係を持った。だが、数ヶ月もしないうちに男たちは豹変、欲望のままに佐智子の肉体のみを求めるようになった。佐智子が断っても求めてくる男性に、ついに佐智子は手籠にされた。その瞬間、同意なきセックスという判定がくだる。男性はスコアを失い、翌日には別の都市に連れ去られてしまう。それが5度も続いてしまった。


「佐智子……。」


 事情を知る晴香が佐智子を心配して声をかけた。だが、あきは負けていない。気の強さも清への信頼の厚さもおっぱいの大きさも。


「でも、清さんは王子様かもしれないのよ!」


 この時代、王子様などはいない。強いて言えばSSSランカー。だから佐智子も晴香も驚愕した。2人ともSSSランカーなんて、想像上の人物だと思っていた。


 長細い方の島では、清が便所掃除を終えたところだった。清は大きなくしゃみをした。


「噂話でくしゃみが出るのは、本当のようですね!」

「よしてよ。俺なんかの噂なんて、誰もしないよ」

「そうでしょうか。何なら証拠の記録を再生しましょうか?」

「証拠って?」

「向こうの島でのあきさんと住民2人の会話です!」

「いっ、良いよ、そんなの……あっ、車が来た!」


 その車は、清を空港まで運んだバスと同型だった。

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