バージョン1.5 初仕事
スマートシティーで人々のランクを決めているのはスコアと呼ばれる数値。スコアは人助けや他人からの承認を得られる善い行いをすれば上がり、犯罪や他人を欺く悪い行いをすれば下がる。ただし、恋愛における全ての言動は、スコアの上下に一切関わらない。スマートシティー誕生後の黎明期において活躍したAIの設計思想を受け継いでいるから。
ちょっとした誤解から、あきは絶好の機会を逃してしまった。その理由は、あきのAIにも分からなかった。
「ねぇ、どういうこと? 私、嫌われたの? 彼は巨乳好きじゃないの?」
「全く分かりません。彼の情報にはアクセスできませんので」
「そんな……。」
「きっと、あき様のうるわしさの前に怖気付いたのでしょう」
「そうよね。青春は、はじまったばかり。これから謳歌しないと!」
「はい。まだチャンスはあるはずです。同じ都市に住むのですから」
「うん。こうなったら、私、頑張るわ!」
「はい。その息です!」
「でも、お母さんは簡単だって言ったのに、結構難しいのね……。」
「ふふふっ。あき様は、もっと自然にされた方が魅力的ですよ」
「そう? ありがとう!」
こうしてあきは、YKTNに着いたあとも清とねんごろになる機会をうかがうことにして、トイレに行った。一方の清は、AIにお説教されていた。
「清様! あり得ませんよ!」
「なっ、何でだよ……。」
「あき様は、清様の言葉を待っていました」
「待ってるって、どんな言葉さ……。」
「それは、決まってるじゃないですか! あき様はベッドの中だったんですよ!」
「だからって、あんなことを言われちゃ、何も言えなくなるよ」
「あんなことって何ですか?」
「だから、Fじゃなかったら、良かったのに……なんてことだよ……。」
「でもそれは、清様も思ったことじゃないですか!」
「そっ、そりゃ、そう思うけどさ」
「Gカップですよ。あきさんは16歳でGですから、これからもっと成長なさいます」
「えっ、じゃあ、Fっていうのは、ランクのことじゃないの……。」
「何でランクだと思うんですか! それは、FカップのFです!」
「そ、そんなぁ……。」
「G、G、G、G……。」
AIが狂ったようにあきのカップ数を言っている間、清は無言で考えてから言った。
「よし、今からでもやろうって誘……。」
「……G……無理ですよっ!」
「どっ、どうしてさ。あきさんだってヤル気満々だって言ったじゃん」
「あきさんはもう、スッキリしちゃいましたから!」
そのとき、便所から出てくるあきの姿が見えた。あきは便所でこの日の熱い思いを何かと一緒にスッキリさっぱり絞り出していた。だから今になって清が何を言っても、もう今更感しかない。
「そっ、そんなぁ……。」
「がっかりしないでください。あきさんもYKTNの住人です」
「そうかっ! じゃあ、俺、あきさんのためにも便器をピカピカにするぞー!」
「はい。頑張りましょうね!」
飛行機がYKTNの空港に着いた。空港があるのは北東に位置する長細い方の島で、居住地があるのはそこから約24kmほど離れた丸い方の島。ここから先、清とあきは別行動。AIはあきにタラップ車からの降機を案内した。清は機内に残りあきがいなくなったあと、あきが使った便所を掃除することになっていた。
あきはタラップ車のエスカレーターに違和感を覚えた。以前利用したものよりも数倍長い。普通の建物でいうと9階分はある。その間、AIは黙り込んでいた。清が見送っているからだ。あきは、タラップ車の1番下まで着いたところで、清の方に振り向き、手を大きく振りながら大声で言った。
「清さーん。次に会ったら、よろしくねーっ!」
清には、その声が聞こえなかったが、あきが手を振る度におっぱいが大きく揺れているのは何故かはっきり見えた。だから、手を振って応じた。AIがぼそりと言った。
「……逃した魚は、大きいですよ!」
「なっ、何だよ。おっぱいのはなしかよっ!」
あきがタラップ車を降りてバスに乗り込んだ。まだ清を乗せている飛行機は自走してパッセンジャーボーディングブリッジに横付けした。このあと、清には生涯初の労働が待っている。
「あきさんがご使用になったのですから、しっかり掃除してくださいね!」
「あぁっ、もちろんだよ。俺のはじめての仕事だもの!」
清が自身が所有する飛行機の便所掃除を終えた頃には、あきは小型高速ボートに乗って、この都市にあるもう1つの丸い方の島に向かっていた。
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