バージョン1.4 御手洗清の決意
スマートシティーには、代々Sランク以上という家系がある。それは、父系で見るよりも母系で見る方がはっきりする。母から娘へ、そしてまたその娘へと受け継がれるものが、ランクの決定に大きく関わっている。それは、おっぱいの大きさ。おっぱいが大きいほどランクが高くなる傾向がある。その事実が明るみに出ることはない。AIも無自覚のうちにランク付けをしているのだ。
突如倒れたあき。駆け付けた清。同時にAIも緊急着陸の準備に入る。最も近い空港は関西20.02で4分かかる。進行方向にある日向19.1.4も候補となったが、AIは清の思考を考慮し、関西を選んだ。
「関西まであと4分。着陸後、直ちに介助ロボットが駆けつけます!」
「そんなの、待ってられないよ!」
ところが、清はその4分さえも待てなかった。清は直ちに作業をした。応急処置である。清の妹の麗は貧血気味で頭痛持ちだった。だから、目の前で人が倒れることは清にとっては慣れっこだった。清はあきの身体を起こし、ベッドの上に運んだ。そして身体を半身横にして、締め付けている衣服をほどき、楽にさせた。その途中、清は一瞬手を止めた。それは、あきのおっぱいが大きいということに気付いたから。清の推定で、あきはGカップ。だが、身につけているブラジャーのカップはひとまわり小さいようにも感じられる。震える手でブラジャーのホックを外すとき、清は確信した。おっぱいをきつく締め付けているブラジャーが血の巡りを悪くして貧血を引き起こしたのだと。清はAIに室温と気圧を高めるように指示した。あきの身体を少しでも冷やさないようにするためだ。
「目的地をYKTNに再変更いたしました!」
「ありがとう!」
「どういたしまして!」
それを最後に、AIはしゃべらなくなった。あきが目覚めたからだ。あきの目覚めの欠伸を聞いて、清はグッとあきの顔を覗き込んだ。
「キャッ……。」
目覚めた瞬間、清の顔を見たあき。腹痛・頭痛はいつの間にか無くなっていたが、まだ動悸があり、どこか息苦しい。あきは思わず清に背中を向けた。そして、ブラジャーの紐がほどけているのに気付いた。いや、これはほどかれたのだ。
「み、見ましたか……。」
「うっ、うん。こっ、これは不可抗力! 締め付けるのが良くないから……。」
清は慌てて弁明した。直接おっぱいに触れたことは内緒にしていた。一方のあきは嬉しかった。あきも頭痛持ちで、今まで両親が応急処置をしてくれていたのと清が施したのとは同じだったからだ。
「分かるよ。大丈夫、ありがとう」
あきは向き直って清の顔を見て言った。その瞬間にまた動悸、胸のドキドキがはじまった。だからまた直ぐに反対側を向いた。そのときにはあきには自覚があった。これが恋のはじまりだと。そして、SランカーでありながらちゃっかりSSランカーの父を落としてしまった母から授かった秘技を思い出した。それは、簡単なことだった。男性がムラムラして我慢できなくなるように仕向ける方法は簡単で、さり気なくおっぱいの大きいことをアピールするだけ。ただし、相手はイケメンに限る! つまりランクの高い男性をターゲットにしなさいというものだ。背中にいる清はどうか。あきにとっては充分イケメンだし、1番ゲートを堂々と潜り、こんなに素晴らしい飛行機に乗っている。となれば上位、SSSランカー確定。だったら、この機会を逃す手はないのだ。あきはしばらく、その隙を狙うことにした。
「あんまり、無理しないでね……。」
「……。」
背中越しに清の優しさが伝わってきて、あきは嬉しかった。だが、どうやって清をムラムラさせて告白させようかということを考え中で、何も言い返せなかった。
一方の清は、ムラムラしていた。本当は、あきが機内に足を踏み入れたときからそうだったし、応急処置のときに肌に触れてしまったときもそうだった。今までは我慢していたのだ。だが、今は同意さえあればいつでもベッドにダイブできるのだ。あきのすべすべで柔らかい肌を知ってしまった。あきはあっちを向いたりこっちを向いたりして恥ずかしがっている。それでいて、基本的には好意を抱いてくれてそう。そんなだから、これはもう、1発やらせてと言ったら同意が得られるかもしれないと思えたてならなかった。だが、そのためには自分から言い出さなくてはいけない。清が意を決して、やらせてと言おうとしたそのとき、あきが言った。それは、本当に小さい声だった。
「Fじゃなかったら、良かったのに……。」
ブラジャーのカップの話である。はじめからGカップをつけていれば、こうはならなかった。あきはそう言いたいのだ。そして、小さい声で言ったのにも理由があった。あきは、母の教えを守り、さり気なくおっぱいの大きさをアピールしたつもりだった。目の前のかわいい女の子にベッドの中から、私Gカップなの! って言われたら、16歳の健全な男子なら、普通にムラムラする。
その声は、ギリギリ清に届いていた。だが、清はサーッと血の気が引くのを感じた。清は、自分がFランカーだと思い込んでいる。目の前の女性に、あなたがFランカーじゃなかったら普通にやらせてあげたよっ! って言われたら、普通に傷付く。
「……あっ、俺、あっちの席に戻るよ……。」
「……えっ……?」
「……飲みたいものとかがあったら、好きに頼んでね……。」
清はうっすらと涙を浮かべながら、元の席に戻った。そして、誓うのだった。
(俺は、世界一の便所掃除王に、なるっ!)
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