バージョン1.3 4つの症状

 スマートシティーにおいて、AIは使用者にとっての良き相談役。だが、AIの発言はいくつかの条件のもと、制限される。トイレの中や就寝中がその一例。プライベートな空間を作るためだ。そして、人が複数いる場にも制限がかかる。人と人との繋がりを何よりも大切にするための工夫だ。



 清とあきは互いに自己紹介を済ませた。そして、あきが腰をかけると、飛行機が離陸。ほどなく水平飛行に移った。その間もずっとあきは腹痛・頭痛と闘っていた。腹痛は今朝からずっとだが、頭痛がしたのは飛行機の中に入ってから。幼少期に家族旅行で使ったのと比べればあまりにも豪華な飛行機に頭が混乱している。


「そうだ、あきさん。飲み物はいかがですか。俺はもう頼んじゃったけど」

「はっ、はい。では、同じものをお願いします」


 このときのあきにとって、飲み物は本当に何でも良かった。だが、清はあきが遠慮しているように感じた。だから違うものを頼めるよう、デバイスにメニューを表示して渡した。


「冷たいのは良くないよ。身体の調子、悪いんでしょう。温かいのもあるから」

「そうですか。で、では、ダージリンのストレートを……。」

「うん。紅茶だね!」


 あきの気分はどんどん悪化していた。頭痛・腹痛に加え、動悸がした。


「あのっ、御手洗をお借りしても、よろしいでしょうか……。」

「うん。こっちの植物の影に入口がありますよ」

「ありがとうございます」


 あきは足早にトイレへと向かった。その途中、清からは見えないところで立ち止まり、AIにはなしかけた。


「ねぇ、なんて紳士なの! 私なんかが一緒にいても良いのかしら……。」

「先方は同乗を歓迎してくれていますよ。遠慮なさらなくても良いのでは?」

「何か、裏があるんじゃないかしら……そっちにあるの、ベッドじゃない……。」

「確認できません。この飛行機を含む先方の情報にアクセスできません」

「そっ、そんなぁ……。」


 あきは多少自意識過剰だった。この日はあきにとっても旅立ちの日。これからは1人前として自分のことは自分で守らなければならない。だが、もし異性が迫ってきたらどうやって躱せば良いのかなんて考えてもいなかった。


(まっ、まさか。身体が目当てってことも……。)


 あきは、4つ目の症状の参戦を感じた。腹痛・頭痛・動悸と、息切れだ。その瞬間、あきはバタリと倒れた。


「あきさん!」


 音に気付いた清があきのところへと駆け付けた。

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