バーグさんの趣味
風見☆渚
怪しい種にはご注意を
笑顔のバーグさんの趣味は、怪しい種を育てること。
何処で買ってきたのか不明だが、いつも笑顔で植物に水をやるのが日課である。
そんなバーグさんが、今日も怪しい種を手に入れたと喜んでいる。
「バーグさん?今日は何の種ですか?」
「これ?う~ん・・・わかんない♪」
「わかんないって・・・なんでそんな怪しい種を育てるんですか?」
「だって、どんな花が咲くのか楽しみじゃない?」
「満面の笑みで語ってますが、いつも花はもちろん目すら出ない種も多いじゃないですか。」
「次こそはってやつよ。私の夢はキレイなお庭でたくさんのお花に囲まれて生活する事なの。」
「そうですか・・・・・・」
幼馴染みのカタリとバーグは、都内のシェアハウスで共同生活している。ハウスのベランダはバーグコレクションと呼ばれており、食虫植物や異臭を放つなど怪しい植物が育つベランダにハウスの皆は近寄ろうとしない。
「今回の種は、どんなお花が咲くのかな?
ふふふ~ん♪」
天気も良く春の暖かさが心地よい昼下がり、バーグは日課のバーグコレクションの草木に水まきをしていた。
日が暮れる頃突然雨が降り出し、カタリはバーグが部屋にいない事に嫌な予感を感じベランダに向かった。
「バーグ?いるの?」
しかし、ベランダにはバーグはおらず、ひとの気配もない。ただ、地面に水が中途半端に入ったままの如雨露が転がっていた。ピンク色の象の形をした如雨露はバーグのお気に入りで、幼い頃から花壇の花に水をやる際必ず使用する物だった。そんな大事な如雨露が転がっている事に、カタリの不安は高まった。
『バーグに何かあったんじゃないか?!』
バーグを心配したカタリはハウス内を探し回り、シェアハウスの住人にもバーグがいないか尋ねて回ったが、誰も見ていない。何処にも見当たらないバーグを探し回り疲れた様子のカタリは食堂の冷蔵庫からお茶を取り出し、一口飲んだ。バーグは何処だを考えているカタリは、自身の後ろで気配を感じ振り返ると、そこにはずぶ濡れのバーグは突っ立っていた。
「バーグ。どこにいたんだよ。心配しただろ?」
「わたし?ずっといたよ・・・」
「いたよって何処に?」
「ずっといたよ・・・
ね?みんな。」
バーグの後ろからぞろぞろと、ハウスの住人が現れた。どの住人も、さっきカタリが尋ねて回った住人ばかりで、しかも誰もがバーグを見ていないと発言している。しかし、何故かバーグと共にカタリの前に現れ、皆がカタリをじっと見つめている。
「かたり?あとはあなただけなの・・・」
「どういこと?バーグ・・・?」
カタリは少しずつ後退りをするが、ここは食堂の奥。冷蔵庫の脇はすぐ壁になっている。壁を背に、バーグ達の雰囲気に違和感と恐怖を感じたカタリは皆の可笑しな事に気が付いた。
少しずつではあるがカタリが後退りしているにも関わらず、誰も近づいて来ない。それどころか、バーグを中心に密集している。
よく見れば、バーグのお尻の部分から植物の弦のようなモノが伸びている。
「バーグ?・・・後ろから何か出てるよ?」
「これ?これは、わたしのよ。みんなわたしのたねからできているから。」
「種?」
「わたしのたねはかくさんして、みんなといっしょになることができたの。だからかたりもわたしといっしょになろう?」
「意味がわからないなぁ・・・・・・」
「だから・・・こういくことよ」
カタリの目の前で、バーグの体はみるみる植物化し、頭には赤く大きな花を咲かせた。花からは薄らと胞子のようなモノが舞っている。
「このたねがみんなのからだにくっつくと、わたしとおなじようにおはながだいすきになってくれるの。これってとってもいいことじゃない?」
「バーグ?もしかして、その種が拡散して皆植物みたいになっているの?」
「だからいってるじゃない。わたしは、きのううえてもらったたねよ。だから、あなたもみんなといっしょにはなをさかせましょう。」
「うわっ!」
バーグのお尻から伸びた植物の弦に足を絡み取られたカタリは、宙づり状態になり、そのままバーグの体をした植物の近くまで連れてこられた。
「あなたはかわいいこ。あなたにもたねをあげるね。」
「嫌だっ!・・・ごぼっ!」
バーグの手が植物のように変異し、太く固められた植物の先を口に無理矢理詰め込まれたカタリは、涙を流しながら気を失ってしまった。
「あなたはわたしのたねをたくさんのみんなにあげてきて。
これでわたしのたねがたくさんのひとにとどけられたら、きっとみんなしあわせになれるわ。」
拡散する種はその後何処までの人間に行き渡ったかわからないが、最近のニュースでは人体が突然植物化するという事件が密かに起こっている事を誰も知らない・・・
バーグさんの趣味 風見☆渚 @kazami_nagisa
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