17話~18話

       17


 前半も、半分近くを消化した。スコアは依然、〇対〇だが、ホワイトフォードは攻められ続けていた。

 右サイドで、ウェブスターがスロー・インを得た。ボールを手に持った4番が、大きく助走を取る。

 4番は上手投げで、ライナー性のスローをした。ヴィクターは突如、後ろにダッシュ。マークを振り切り、胸で近くの3番に落とす。

 3番と平行の位置へとヴィクターは移った。3番はダイレクトで転がす。

 ヴィクターにボールが収まった。するとウェブスターの選手たちが、連動して動き始めた。ホワイトフォードの注意が、走り込む選手にも向かう。

 流麗なフォームで、ヴィクターがドリブルを始めた。ホワイトフォードの17番が、慌てて寄せていく。

 ヴィクターは、とんっと右にステップを踏んだ。17番の身体が軽く左に傾く。

 見届けたヴィクターは、真左に小さく出した。17番が足を伸ばすが、ヴィクターは早いツー・タッチ目で外を突破した。無駄を削ぎ落とした洗練されたドリブル・テクニックだった。

 続いて立ちはだかった2番をヴィクターは右、左のダブル・タッチで抜き去り、左足を振り抜いた。

 警戒して引いていた桐畑が、必死のスライディングを掛けた。桐畑の足に当たったシュートは軌道が変わり、ゴールの右を通過する。

 外に出たボールはキーパーが確保して、ゴール・キックとなる。

「良いカバーリングだよ! 冴えてる、冴えてる! ホワイトフォード、この流れに乗ってこう!」

 口に左手を置いた遥香が、快活な声音で叫んだ。

 すでに立ち上がっていた桐畑は、大きく息を吸い込んだ。

「ヴィクターは、俺が見る! やっぱな、エースの相手は、エースがしなきゃいけねえだろ! だーいじょうぶだよ! 綺麗さっぱり、見事に止めてやるから!」

 大音声で自らを鼓舞した桐畑は、ヴィクターに近づいた。ゴール・キックを注視するヴィクターは、意に介した様子のない真顔だった。


       18


 桐畑がヴィクターのマークに付いてから、二十分近くが経過した。いまだ、試合は動いていなかった。

 ホワイトフォードが、大きくクリアをした。ペナルティー・アークのやや後ろのヴィクターが、足の甲に当てた。ボールは勢いが消されて、ヴィクターの足元に収まる。

 駆け寄った桐畑は、二m弱の間を取って立ち止まった。半身の姿勢で、ヴィクターの臍の辺りを注視。神経を研ぎ澄ませて動きを観察する。

 ヴィクターは直立姿勢で動きを止めた。だが唐突に、右足で内から外へとボールを跨ぐ。

 桐畑は動じず、さらに集中を高め始めた。ヴィクターのシザースが、速度を増していく。

 四回目の跨ぎで、ヴィクターの左足がボールに当たった。桐畑は意表を突かれるが、必死でパスの先へ向かう。

 受け手の6番は外に行く振りを入れて、ダイレクトで戻した。桐畑は追随できず、ヴィクターの左足のシュートを許す。

 浮き玉がゴールの左隅へと飛んだ。大きく跳躍したキーパーはなんとかキャッチし、斜め後ろへと倒れ込む。

(ちっ、まーた別の選手を使いやがった。一対一じゃあ、対等にバトれるんだがな。ヴィクターは、マジでクレバーに周りを利用しやがるぜ。このままじゃあ、ジリ貧だよな。さぁて、どうすっか)

 桐畑は、苦々しく考えながら前線に移動する。まもなくして、キーパーがロング・ボールを蹴った。だが、ホイッスルが鳴った。前半の終了だった。

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