17話~18話
17
後半も十五分が経過した。スコアはなおも、一対一。
エドは終始、惜しい攻めを続けていた。エドの頑張りに守備陣も奮起し、二人掛かりだが、なんとかマルセロを食い止めていた。
エドの近くで、桐畑がボールを受けた。露骨なまでに左を見ながら、エドに、ノー・ルックの短いパスを送る。
(ケントの奴も、俺のおかげでノリノリだな。いっつもは、あんな風にはテクらないのにさ。よーし、よしよし、俺は、さらにその上を行ってやる! そんでもって、ホワイトフォードのみんなのために、なにがなんでもぜってー勝つ!)
トラップしたエドは、二回、三回とボールを跨ぐ。相対する3番の反応を予測しながら、身体に染みついたカポエィラのリズムでゆっくりと。
一瞬の隙が見えた。エドは、下ろした右足をすぐさまボールに遣った。ふわりと浮かせて、3番の右を突破する。
慌てた他の選手が詰めてきた。エドはすかさず、左に転がす。
マークの外れたブラムが、ダイレクト(パスを止めないでのプレー)で右足を振り抜いた。
低弾道の高速シュートはキーパーの手を掠め、ゴールの内側を通過した。
よしっ! とブラムは、右手を握り締めて短く叫んだ。エドは心のままに、全速力で駆け寄った。気付いたブラムが慌てて出した右手に、思いっきりハイ・タッチを決める。
一対一。値千金の同点弾だった。
18
後半も残り十五分を切ったが、両チームとも追加点はなかった。3番は、早くもエドの緩急のあるドリブルへの適応を見せ始めていた。
ペナルティ・エリアの角で、マルセロがボールを持った。右足の裏でボールを押さえて、悠々と前方を見渡す。
(エドの野郎、俺の崇高な思惑通りに蘇りやがったな。それでこそ、やり合う価値があるってもんだぜ。
しかし、雰囲気のままに敵に塩を送っちまったな。後で、いろんな奴にドヤされちまうかもな。まあでも、勝ちゃあ誰も文句は付けねえか。うーし)
一人、感情を高めたマルセロは、ちょんと右にボールを突いた。縦への突破を続けてきたからか、敵のディフェンスの二人はすぐに左へと重心を移す。
間髪を入れずにマルセロは、右足の内側で蹴り出した。二人の股を抜いたボールを、本気の加速で追い掛ける。
ラインのぎりぎりで追い付いて、左で中へと折り返す。しかしキーパーは斜め上への跳躍の後、握った手で、マルセロのクロスを弾き返した。
溢れたボールには、ホワイトフォードの5番が詰め寄った。後ろからの圧力を受けて、転けそうになりながら確保。前へと大きくクリアをする。
(おうおう、どいつもこいつも、アッツアツってわけかよ。ポルトガルの大エースとしては、負けちゃいらんねえよな)
マルセロは気持ちを盛り上げつつ、全力で引き返し始めた。
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