13話~14話

       13


 〇対一のまま、前半の終了が近づいた。エドのプレーは、依然として精彩を欠いていた。悪いイメージが払拭できていない様子だった。

 ポルトガルのコートの中ほどで、エドが足の裏でボールを保持する。きょろきょろと周りを確認しているが、顔には生気がない。スピードを警戒しているのか、敵の3番は大きめの距離を取っていた。

 小さく助走したエドは、シュートのモーションに入る。3番が腰を落とし、警戒し始めた。

(そんな遠くから撃っても、まず入らねえよ。判断力まで鈍ってやがる。こりゃあもう、交代してもらうしかないか)

 桐畑が諦めた風に思考を巡らせていると、ぬっと、エドのすぐ目の前にマルセロが現れた。エドは動作を止められず、キックは左足で弾かれる。

 エドの後方に強めの勢いで転がったボールに、近くにいたホワイトフォードの4番が足を伸ばした。

 しかし、マルセロが先んじた。爪先でボールを浮かせて4番を突破し、右方へと大きく蹴り込む。

 パスは、敵にも味方にも厳しいコースだった。外に出たボールは、遠くへと転がっていく。

(この怪物野郎め。とうとう守備にまで顔を出してきやがった。いよいよマルセロ祭りって感じだな)

 気を引き締め直した桐畑は、エドに駆け寄ろうと向き直った。

 するとエドの面前に居続けるマルセロが、くわっと開いた目でエドを見下ろしていた。腰に手を当てて両足を開く様に、桐畑は特撮ヒーローを思い出していた。

「エド。俺とお前には、すっさまじく大きな違いがある。何だかわかるかよ?」

 マルセロの語調は真剣だったが、怒っているようにも取れた。わずかに眉を顰めたエドは、考え込んでいる様子だ。

 少し間を置いたマルセロは、びしりと固定した左手の親指で、胸の国旗をぐっと突いた。

「てめえの国に誇りを持って、祖国を背負って戦う魂だよ。今のおめえは俺が俺がって、自分のためにしか戦ってねえんだ。そんな体たらくじゃあ、千年掛かっても俺には敵わねえよ」

 言葉を切ったマルセロは、ぴたりと固まり微動だにしない。眉を上げたエドは、はっとしているようにも見える。

 数秒の後に、マルセロが動き出した。定位置へと小走りをする背中は、これまで以上にパワフルに感じられた。


       14


 前半はまもなく終わり、会員たちは、ダンを含んだ円になった。

 講評を進めたダンは、ある時ふっと、エドに真摯な視線を向けた。

「エド。率直に所感を告げると、今日の君は、全く良いところがない。事情も理解している。だから交代も──」

「大丈夫です、先生」ダンと反対側にいるエドが、ダンの淡々とした台詞に割り込んだ。口振りと表情は決然としていて、手はぎゅっと握り締められていた。

「俺はもう大丈夫。マルセロの喝で、ばっちり目が覚めた。だから後半は絶対に、俺のショー・タイムだ」

 睨むような目力で、エドは断言した。一秒、二秒。深い顔のダンは、エドから視線を逸らさない。

「わかった。ではこの試合は、君に運命を託すとしよう。重々承知で、プレーするように」

はいYes sir!」

 エドの返事が、グラウンド上に轟いた。

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