第4話渡りガラス



「皆さんお集まりで、あの島の様子をつぶさに見たので遅くなってしまいました」


と彼は長めの嘴で言った。艶々とした黒く見える羽は、他のカラスに比べてかなり大きく、立派だった。そのまま彼らを小さくしたカラスは、遠くまで飛行することはないが、彼らは特殊で旅をする翼をもっている。


「大きなカラスくん、島の様子は我々も見た、君は何か案があるのだろう? 」


「皆さんと同じく、植物たちに詳しく島の様子を話す事に変わりはありません。また植物たちが我々鳥に畏敬と羨望、また多少の恨みのような気持からこのような事態になったのではと言う意見にも同意します」


「悪いが結論を聞きたい」


カラスと対等に渡り合えるのは、大型の猛禽たちだけだった。


「ハハハ、せっかちですね、では私の意見を申しましょう。彼らに争いではなく、遊びを勧めるのです」


「遊びとは何だ」


「まあ、遊びというか、彼らが今でもやっていることなのですが、他の物よりより多くの種を付けるように、我々が諭すのです。今でも十分な多さがありますが「不必要なほどの多くの実」を付けることを競わせれば、それは彼らとて目に見え、誇らしいことではないでしょうか。それが芽を出せずとも、それはやがてまた土になる。それが出来ずに、地下茎で無限に伸びるあの植物は、腐ることもなく、短期間で島を制圧した。そうして滅びてゆくでしょう、自分だけで生きていくことなどできはしないのです」


「そうだわ! 」

と女性の声がた。


「美しい花で競わせるというのもどうかしら。私たちは色々な所に行って本当に美しい花を見たわ。それを時々話していたけれど、そうよ「あなたもこんな色のこんな形の花はどう? きっと咲かせることができるはず」と言ってあげればよかったんだわ」


「これは優しく賢く、美しいものがお好きな女性ならではの考えですね。あなた方女性はは自分で着飾るよりも、美しい男を見るのがお好きなようですね、それもとてもよろしいかと思います。「殺し合いより美しいものの方が楽しい」と教えることです。そうでなければ、あの島のようになってしまうと。

植物たちも半分はわかっているのだろうとは思うのです。ですが引っ込みがつかなくなっているのでしょう。ならば我々がその手助けをしようではありませんか」


 渡りガラスの言葉に鳥たちは納得し、みんなで「そうしよう」とそれぞれの土地の植物たちに話をした。

さすがに戦いに疲れていた植物たちは、この「数と美しさ」の方が死ぬこともなく、安心だろうと気が付き、あの島が死の島になった短い時よりも早くに、戦いを止めた。虫も他の動物たちも安堵し、日々は順調に流れた。

だがそれからほどなくしたある日の事だった。




「あれはなんだ! 」


 鳥たちも虫たちも驚いた。何かが空を飛んでいる。風に舞い上がった木の葉のような動きだが、明らかにそれよりも小さい。

近寄ってみると、羽が生えているわけではない。どこか鳥の羽毛のような軽いものが上にあり、その下に小さな種のようなものがある。


「別のものも飛んでいるぞ! 」


そのものはクルクルと回りながら、横風を受けると、更に加速して遠くに飛んでいった。翼あるものたちが驚くような速さで。


「羽のようなものの下についているのは種か・・・」


鳥も虫も驚いてそれらを見つめ、あるものはそれを飛ばした草に、木に、話を聞きに行った。


「私も飛んでみたくてね、小さな種なら飛んでいけるだろう? 」


植物たちにとって、何よりも鳥の驚いた顔がうれしかった。自分たちの争いを止めてくれた事への、最大級のお礼の様だった。鳥の方も風任せとはいえ、様々な方向に旅する種を興味深く観察するようになった。


「海の方まで飛んできていたよ」

「面白くなって一緒に飛んだよ」


植物たちと前よりも楽しく話すことができた。

 


 でも時々あの春と秋の会議の事を思い出す。あの頃の恐ろしいような植物たちの様を、食べるものが無くなって死んでいった雛を。

しかしあの会議がなかったら、鳥を含め多くのものが生きてはいけなかった。

植物がこんなに「飛ぶもの」を生み出すとは思わなかったが、「遊ぶように競う」ことを提案した渡りガラス、そして今は「飛ぶ種」に熱中している植物たち、結果として良い方向に向かっている。


あの「実りある会議」こそがきっと今を作っている。






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春と秋の会議 @nakamichiko

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