第30話:【悪魔の囁き】<お金。


「えっ、ちょっ……えぇ~? もう一回言ってもらっていい?」


「だから、貴女達をネタにさせてって言ってるのよ」


 えっと……会長が書いてる漫画って確かルキヤが言う所の百合漫画だったよな?

 でぱふぱふゆりえっち先生って言うくらいだからエロ漫画な訳で……。


「ボクはいいよ? 何も困らないし」


「漫画になるの!? 私もだいかんげー♪」


「待て待てお前ら、よく考えろ! 奈那はよく分かってないかもしれないけどこの人はぱふぱふゆりえっち先生って言って、女の子同士のエロ漫画を描いてるような人なんだぞ」


「ちょっとその言い方には引っかかる物があるけれど……事実だから仕方ないわね」


 そもそもパフィ会長はそれを隠してたんじゃないのか?


「それをあこや奈那に言っちゃってよかったの?」


「断腸の思いというやつよ。貴女達三人ってはたから見てると物凄く……イイのよ」


「わかる」


 いやいや、会長が何を言ってるのかよく分からないけどそれに即賛同するルキヤもどうかと思うぞ?


「分ってくれるの!? 貴方……あこって言ったっけ。阿呼辺君と一緒で百合には理解がある人なのね」


「ぱふぱふゆりえっち先生の漫画はいつも読んでますよ」


 ルキヤが声のトーンを少しだけ高くしてちゃんとしたあこモードに入った。

 本人もやっと気を付ける気になったらしい。

 多分会長と同じ話をした事があるからだろう。



「あら、あらあら……絵菜さん、この方とっても理解力があって素敵ですわね」


 会長がねっとりとした笑顔でルキヤの手を取る。


「という訳で、オッケーしてくれるって事でいいのかしら?」


「勿論です! 光栄です♪」


「ちょっとまてぇぇぇぇぇい!!」


 突っ込まずにいられなかった。私達が漫画上でエロい事させられる事が勝手に決まっていく。


「さ、さすがにそれはどうかと思うんだけど! 奈那からも何か言ってやって!」


「えぇー? だって漫画になるんだよ? おもしろそうじゃん 絵菜ちゃんは何が嫌なのー?」


 やめろそんな無垢な目で私を見るな!


「奈那は自分が勝手にエロい漫画にされて嫌じゃないのか!?」


「んー、だって漫画でしょ? それにこの三人で、なんだよね? 相手が男の人とかだったらちょっとなーって思うけど、別にいいんじゃない?」


 マジかよ……ルキヤだけじゃなくて奈那まで会長側につくのか?


「絵菜さん、二人ともいいとおっしゃってるんですから……納得してくださいませんか?」



「……一つ、確認したい」


「なんでしょう?」


 これはとても重要な案件だ。

 私はぱふぱふゆりえっち先生について知らなすぎる。


「会長はどこで漫画を描いていてどの程度の人気があるの?」


「なっ、絵菜ちゃん……それはぱふぱふゆりえっち先生に失礼だよ! 本当に知らないの?」



「知らんから聞いてるんだよ」


「絵菜ちゃんはそういうとこあるよね! 本人目の前にして聞く事じゃないでしょ!? 後でボクに聞けばいくらでも……」


「あこさん、いいんです。きっとこの場で知る必要があるから聞いてるんでしょう」


 会長は少し伏し目がちになってルキヤを制止した。


「私は……現在連載を三つ抱えております。全て月刊誌で、百合王子、LF、快楽殿という物です。毎回どれも人気上位五作中には入っております」


「ごめん、どれも聞いた事ないわ」


 ルキヤは私の言葉にギリギリと歯を食いしばっている。奈那も聞いた事がなさそうだけど、「雑誌に三つもすごーい♪ 人気作家さんなんだねー」と喜んでいた。



「百合なんとかいうのは百合雑誌なんだろうし、快楽殿ってのはどうせエロ雑誌なんだろうけど……そのLFってのは何?」


 もしかしたら健全作品の一つくらいあるかもしれない。


「LFというのはロリータファ●クの略で……」


「ダメだダメだ!! この話は無かった事にさせてもらおうっ!!」


「絵菜ちゃん、店の中で叫んだら迷惑だからとりあえず座りなよ。紅茶も来たよ」


 突然立ち上がった私に吃驚しながら店員さんが紅茶とパンケーキを運んできた。


 仕方ないので大人しく席につくと、奈那はこちらの話なんてまるで興味がないようにパンケーキを頬張って満面の笑みである。本当に可愛いやつめ。


 すぐに紅茶を注ごうとしたら会長に止められた。「少し蒸らさなきゃダメじゃない。店員さんが説明してくれたでしょう? ほんとにガサツなんだから……」とブツブツ言いながら私とルキヤの分の紅茶の用意をしてくれた。



 こういう所をみるととても面倒見がいい先輩なんだろう。

 ぱふぱふゆりえっち先生でさえなければとても尊敬できる人なんだが……。


「……さ、これでいいわよ。それで……ダメな理由、一応聞いてもいいかしら?」


「連載雑誌がいかがわしすぎる! 私達が漫画中でどんな酷い扱いを受けるか……」


「それは一つ誤解があります」


 会長が紅茶を一啜りして、私の前に指を一本立てた。


「私がお願いしているのは雑誌連載の漫画ではありません」


 ……雑誌に乗せない漫画って何よ?


「もしかしてコミバ用ですか!?」


「そうよ。あこさんはそちらの知識もおありなのね」


「コミバって何……?」


「コミックバーゲンって言って……絵菜さんに分かりやすく言うとね、個人で制作した漫画を個人で販売するのよ。定期的にそういうイベントがあって、その会場で作家個人が自主制作本を売るのね。分かるかしら?」


 ……個人。個人か……。


「ちなみに、売り上げの五パーセントを貴方達に報酬として支払います」


 金になる……だと?

 いや、しかしたった五パーセントだろう?

 その為に乗っていい話か……?


「もぐもぐ……ちなみになんれすけろ、普段はどのくらい売り上げてるんれすー?」


 パンケーキで口をパンパンにしながら奈那が大事な質問をした。


「そうね。その時の新刊数にもよるけれど七百万から一千万ってところかしら」


「どうぞご自由にお使い下さい!!」

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