第29話:予想だにせぬ【提案】。

「パフェ美味しかった~♪」


「ボクが頼んだプリンアラモードパスタも結構美味しかったよ」


 そうなんだよなぁ。私もルキヤに少しもらってプリンアラモードパスタ食べてみたんだけど、パスタ部分の食感がちょっと気にはなったけど……意外と食えたんだよなぁ。


 パスタ部分を生地か何かだと思えば普通にクレープみたいな感じだった。


 でもちょっと待てよ……? だったら何故パスタにした? あれってもうクレープにした方がよほど美味しいのでは……?


「ボクはそこまで甘い物が好きって訳じゃないんだけど、思ってたより甘すぎなくて丁度良かったしあれはパスタだったからいいと思うんだよね~♪ クレープとかだとちょっと違うと思う」


 ルキヤと食の好みは合わないらしい。口に出してもいないのに即座に否定されてしまった。


 いや、そもそもルキヤはそこまで甘い物得意じゃないんだからスイーツの評価なんてあてにならん。


 ルキヤが世間の声代表ならこの世はとっくに終わってる。うん、間違いない。


「何難しいかもしてるの?」


「ん、いや……お前は間違ってるって話だ」


「……急にどうしたの?」


「すまん。忘れてくれ。心の声が外に出ちまった」


 気をつけないといけない。


「ちょっと待って、ボクが間違ってるっていう心の声ってどういう事!?」


「お前は知らなくていい事だから!」


「ボクの事だったら尚更聞く資格があるでしょ!?」


「何でもねぇって、お前が世間代表ならこの世は終わりだって思っただけだよ」


「ひどい! なんかよく分からない事でディスられてる!!」


「ねーねーさっきから何の話? 」


 私とルキヤの間に顔を突っ込むようにして奈那が現れた。

 むしろ私の顔の目の前にぬっと顔が出てきて、しかも歩きながらだったからそのまま顔面同士でぶつかっちゃうところだった。


「あっぶね! 奈那……急に出てきたら危ないだろうが」


「えっへへーごめんね♪」


「あーもう何やってるの!? 大チャンス無駄にするとか絵菜ちゃんはほんとに……これだから、勿体ないなぁ……」


 なんでそこでルキヤがキレるんだよ……。


 ……あ、そうか。確かにこいつの言う通りだったかもしれない。


 あのまま避けずに顔面クラッシュしてればさっきのをキスって事にしてごまかせたかもしれないのに……! 私のばか!


「約束忘れないでね」


「分かったってば……」


「だからなんのはなしー?」


「絵菜ちゃんが奈那ちゃんの事好きって話だよ」


 馬鹿野郎、いきなり何を言い出すんだこいつは。願望垂れ流すのは頭の中だけにしとけ!


「あー、やっぱり? そうなの? 私はいつでもうぇるかむだからねー♪」


 そう言って奈那はくるくる回りながら器用に人込みをすり抜けデパートの外へ出ていった。



「お前適当な事言って私を困らせるなよ……? そのうち正体バレても知らねぇぞ」


「う、気を付けるよ……ちょっとは。でも約束は守ってもらうから」


 それだよなぁ……どうすっかなぁ……もうこのまま帰る流れだもんな。


 項垂れながら私達もデパートを出ると、ふいに声をかけられた。


「ちょっと貴女達!」


 その声に振り向くと、どうやら私達を待ち伏せしていたらしいパフィ会長がそこにいた。


「あれ、ぱふぱふゆり……じゃなかった、パフィ会長もうお仕事終わりなのんですか?」


 ツインテールを解いてウェーブ状になった髪を風になびかせながらパフィ会長は腕組みしてこちらを睨んでいる。

 ルキヤもさらりとぱふぱふゆりえっち先生と名前を出しそうになってるし……。


 奈那はこちらに気付いてとてとてと戻ってくるが、さっき見たばかりの会長の事を覚えていないらしい。どうなってるんだこの子の頭の中は……。


「どこかで見た事ある気がするけど……絵菜ちゃんの友達?」


「いや、さっきのメイドさんだよ……ほら、萌え萌えきゅきゅきゅーん♪ の」


「あぁ、萌え萌えきゅきゅきゅーん♪ の人かー!」


「だ、黙りなさい!! あ、貴女達に、話があります!!」


 妙に語尾が裏返った声でそんな事を言い、私達は会長に連行された。


「会長、どこいくの?」


「落ち着いて話が出来る場所です! 黙ってついて来てください!」



 おー怒ってる怒ってる……。

 数分歩いて、「ここです」と会長が階段を降りて地下へ向かう。


 どうやらそこは雪山の上という名前のお店らしい。


 中に入ると少し暗めだけど思ったより広く、とてもお洒落で大人の雰囲気のある店内だった。


「一番奥の席に行きます」


 店員さんに軽く会釈をしてずかずかと会長は奥まで歩いていく。どうやら常連らしい。


「ふぅ……とりあえず何か注文して下さい。私が奢りますから」


「ボクたちさっき食べて来たばかりですよ」


「だったら紅茶でも飲んでなさい。……しかし貴女ルキヤ君にほんとよく似てるわね……」



 ダメだ、こいつと会長をあまり会話させると本当にバレるかもしれない。


「あ、ああありがとう! あったかいのを飲みたくなってたところだったんだ。私はコレ、あこはこっちでいいよな?」


 無理矢理注文を決めて店員を呼ぶ。

 私とあこはブラックチェリーの紅茶。会長はなにやら高級そうなやつを頼んでた。


「私はこのリンゴのパンケーキください♪」


 さらりと再びスイーツを頼む奈那に驚愕を隠せない。

 甘いものは別腹というが、奈那の別の場所にある腹はとても大きいようだ。


「で、会長。話っていうのは何? こんな所まで連れてきて奢ってまで話すような事なんでしょ?」


 大体分かっては居るけど、なかなか話し始めないから後押ししてやる。


「あ、あの……その……あ、貴女達にお願いがあるの」


 だろうね。どうせ学校の人達には内緒にしてほしいって言うんだろ?


「貴女達を、その……私の漫画のネタにさせて!」


 なん……だと……?

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