第31話:【想定外】の正面衝突。


 私達はあの後美味しい紅茶を頂いて、パフィ会長に奢ってもらって喫茶店を後にした。


 会長はまだ用事があるみたいですぐに別行動になった。

 私達はどうしようかって話になったけど一通り予定も終わったし、沢山食べたし飲んだしこれで帰ろっかってなったので、犬袋の西口公園脇にある地下への通路を通って駅まで向かった。


「絵菜ちゃん嫌がってたのになんでオッケーしたの?」


 奈那が不思議そうに聞いてくる。

 そんなの理由なんて一つしかない。


「ゼニよ。この世の大体はゼニで解決するのだ!」


「うわぁ……俗物極まってるね」


 ルキヤに言われたくねー!

 お前なんて俗にまみれて変な具合にこじらせたザ・俗物じゃねーか!


 言ってやりたい。この場で大声で罵ってやりたい。


 でも奈那がいるのでダメ。我慢我慢。


「あー、冷やしクリームパン売ってる! 買ってっていい?」


「……奈那、まだ甘い物食べるの……? さすがに軽く引くわ」


「酷くない!? 未来の嫁に向かってなんて事言うのこのダメ夫は!」


「誰がダメ夫だ誰が!! まったく……奈那は一体私の事なんだと思ってるのかねぇ」


「性別を間違えて生まれて来た可哀想な人?」


 奈那……それは目の前でニヤついてるヤバいやつに言ってやってくれ。

 こいつこそ男に生まれて来た事が間違いみたいな奴じゃないか……。


「奈那は私が男の方が良かった?」


「べっつにー? 私は性別とかあんまり気にしないし? ただ男の人だったら絵菜ちゃんの方が躊躇せずに迫って来てくれるかなー? って思って」


「待て待て。それはどこまで本気で言ってるんだ」


 ルキヤの奴を喜ばせるだけじゃないかこんなの。


 私はわざとイチャついてこいつを振り回して遊ぶつもりでいたのに思ったよりも奈那の方がガチめな態度取るから完全に私が振り回されてしまってる。


 これは良くない。


「どこまでって言われても……だって絵菜ちゃんは私の彼氏だしねー♪」


 だからそれをどこまで本気で言ってんだって話ですよ。


「絵菜ちゃん……もうすぐホームに着いちゃうよ? 電車乗ったら二駅ですぐ到着だからね? 分ってるよね?」


 あーうぜぇーっ!!

 耳元で囁くんじゃねぇよ吐息が耳にかかってんだよわかってんのかこいつ!


「どうしたの? なんだか顔が赤くなっちゃってるけど~? もしかして私の事意識して赤くなっちゃったかなー?」


 奈那は私の様子を見てケラケラ笑ってる。

 絶対この子私をおちょくって楽しんでるだけだろ……。


「あーはいはい。奈那の事考えてたら顔が火照って来ちゃったなー困った困った」


「全然困ってなさそう! 私への対応適当過ぎる! そういう男は嫌われるよ!?」


「男じゃねぇんだわ」


 そんな下らないやり取りをしながらホームへ到着する。


「ちょっと奈那そっち違う。それ準急だから。ほら、こっちの四番線だよ」


「あっ、ごめーん」


 小走りで電車に向かおうとしてた奈那が私の声に慌ててその場っでターンする。

 丁度その時、振り向いた所に小さな子供が走ってきて、あわや激突しそうになった。


「うっ、うわわわーっ!!」


 奈那がなんとか身体を無理矢理捻って子供をかわした……けど、完全にバランスを崩して転びそうになる。


「危ないっ!!」


 私はなんとか奈那を受け止めようとしたんだけど……。


 がちんっ!!


「痛って!!」


「~~っ!!」


 なんとか受け止めたはいいものの思いっきり顔面同士で衝突してしまった。


「う、うぉぉぉぉ……」


 痛い。これはかなり痛い。

 なんか硬い所に当たったらしくて唇切れたかも。


「……ご、ごめん」


「あー、いいって。気にしないで。それより怪我はない?」


「……うん」


 分かりやすく凹んでるなぁ。


「奈那、ほんと大丈夫だから気にしないでよ。それより子供にぶつからなくてよかったじゃん」


「……うん」


 元気ねぇなぁ……。


「あ、丁度電車来たから。……ほら、帰るよ」



 そう言って奈那の手を掴み、四番線へ引っ張っていく。


 ぼーっと突っ立ってたルキヤの隣を通り過ぎる時、小さな声で「ぐっじょぶ」と聞こえたがどういう意味だ?


 あの顔面衝突でルキヤの妙な指令はクリアできたと思っていいんだろうか?


 確かに私の口が奈那の顔面のどっかにぶつかったのは間違いない訳だからほっぺにキスみたいなもんだったのかもしれない。


 ちょっと痛みを伴いすぎてるけど。


「ほら、あこも帰るよ。早くしないと座れなくなっちゃうから急いで」


 私達が乗る電車は犬袋が終点、折り返しで全部始発になるから早めに行けば確実に座れる素敵な電車なのだ。


 といっても二駅だけど……。


 電車に乗り込んで席を確保し、どっかりと座って大きくため息をつく。


 疲れた……今日はいろんな事があってめっちゃ疲れた!


 ルキヤは私の右側で終始にっこにこしてる。その顔が妙にイラついたけれど機嫌が悪いよりはいいだろう。

 こいつが機嫌いい時なんてろくな事ないけど。


 電車が二駅進むまで奈那は一言も発しなかった。


 あまりに普段と様子が違うので心配になるくらいだ。


「もしかしてどこか痛いんじゃないのか?」


 電車を降りて改札を出た所で奈那に聞いてみる。

 怪我でもされてたら困るし。


「な、なんでもない。ほんと、なんでもないから……! じゃあ私、帰るね!」


「お、おう……」


 奈那がなんだか急いでいるようだったので駅前で解散したけど、奈那は何故か私達が見えなくなるまで駅前でぼけーっとこっちを見ていた。


 急いでるんじゃないの? 変な奈那。

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