第23話:ドキドキ【ランジェリーショップ】。


 はぁ……めっちゃ気が重いけど、どうせ買い物に来たんだから楽しまなきゃ損だよね。

 しかしルキヤのやつ今あこ状態だからって平気で人の胸触ってくるとは思わなかった……。


 ちょっとドキドキした。


 けど、あの流れで普通お前が触ってくるか?

 考えれば考えるほどぶん殴りたくなってくる……。


「難しい顔してどうかしたの? 早く行こうよ」


「あぁ……殴りたい」


「絵菜ちゃん、見て見て! なんかタコ伸したせんべいみたいなの売ってる!」


 ……私がルキヤに対しての殺意を高ぶらせていると、奈那が駅の中にあるお店の一つを指さしてきゃいきゃい騒ぎ出した。


「そうかそうか、良かったな。ほれシカクイに行くぞ」


「ちょっと! 私の扱い適当になってない? まってよ~っ!」


 パタパタという足音を響かせて私を追いかけてきた奈那はそのまま私の腕に絡みついてくる。

 本当に天使。女子たるものこうでなくてはいけない。私も見習わないと……。


 というか駅の構内から出るまでにどんだけかかってるんだよ。


「ちょっと急ぐぞ?」


 駅出口の階段を上り、犬袋駅西口に出る。

 そこから五分も歩かない所に犬袋シカクイというデパートがあり、私達は中へ入って目的のフロアへ。


「……ボクはここで待ってる」


「お? どうした? さすがに恥ずかしくなったか? でもそんなワガママ許すわけないだろさっさときやがれ」


「奈那ちゃんこわーい。ほら、あこちゃんも一緒に来て選んでよ♪」


 顔を真っ赤にするルキヤを奈那が無理矢理店内へ引きずり込む。


 そう、私達が今着ているのはランジェリーショップというやつだ。

 正直言うと私にはあまり縁がない。


 私の下着なんて基本スポブラと、セットのパンツだし、大抵の場合ファッションセンターホンダで安いの買っちゃうからこんな本格的な下着の店なんか来た事ない。


「ねぇあこちゃん、私にどれが似合うかなー? これとかどう?」


 奈那がちょっと攻めた黒のスケスケブラを手に取り自分の胸の前に当てて見せてくるのを、ルキヤは突然落ち着いた様子で「ちょっと大人っぽすぎるよ」とダメ出し。


 ランジェリーショップに入るのは抵抗があるけど女子の下着を選ぶ事自体はこいつにとってなんてことないらしい。


 よくわからん。


 ……というかだ、ルキヤが奈那の下着を選んであげてるっていうこの状況はなんというか、ダメじゃぁないか?


 いろいろ問題がある気がしてきた。


「こいつに聞いてもダメだって。そもそもまともな下着なんかつけてないんだから」


 私とした事がつい、余計な事をしてしまった。



「そんなの絵菜ちゃんだって一緒でしょ!? スポブラしか持ってないの知ってるんだからね!」


「なんで知ってんだよっ!!」


 ルキヤが何故私の下着なんて知ってる? 家でこっそり引き出しの中見たのか!?


「だっていつもうっすら透けてるじゃん」


 ……あっ、殺そう。


「こらこらーっ、何を揉めてるのかなぁ? 二人ともちゃんとしたの持ってないならいっそ今日一緒に買っちゃおうよ♪ 店員さーん!」


「「ちょっ、待って!」」


 私とルキヤの声がハモる。

 が、時すでに遅しというやつで、にっこにこした女性店員さんが物凄い速さでこちらに近付いてきたかと思うと、逃がさないと言わんばかりに入り口側を塞いで私達に話しかけてきた。


「いらっしゃいませ~♪ 本日はどのような物をお探しですか?」


「うんとね、この二人ちゃんとした下着買うの初めてなんだって。だから採寸してそれっぽいのを見繕ってほしいなって」


「奈那! 勝手な事を……」


「かしこまりました♪ ではまずこちらの黒髪の……はい、貴女です。こちらにいらしてください♪」


 私の目の前で、店員がルキヤの腕をがっしりと掴み引き摺っていく。


「え、絵菜ちゃんっ! ちょっと! 見てないで助けてっ!!」


 涙目でルキヤが店員に引っ張られていくのを見て、私の中の何かがうずいてしまった。


 やべぇ、これは予想外の展開だがめちゃくちゃ面白そうだぞ。


「あこ、がんばってこい♪」


「そんなぁっ!!」


 ルキヤはレジのすぐ横まで連れていかれて、服の上からメジャーを胸元に巻かれていく。それを顔を真っ赤にしながらぷるぷる耐えている姿がなんともたまらん。


 トップとアンダーを図りながら店員さんが少し困った顔をしていた。

 そりゃそうだろう。


 私は今にも笑い出しそうになるのを必死に堪えた。

 これはなかなかいい物を見れたぞ!!


 その後ルキヤは店員に背後から胸を鷲掴みにされ、「……お客様、大丈夫、きちんと育てれば大きくなりますからね」とか慰められていた。


 付け方を指南するとか言って更衣室の中に引き擦り込まれそうになるのだけは本人が必死に抵抗して逃れた。


 ちょっとそれも見たかったけど、バレたら元も子もないのでその辺で許してあげる事にして、助けに入る。


「店員さん、その子めっちゃ恥ずかしがりやだからその辺にしておいてあげて」


「そう、ですか……?」


 ちょっと残念そうに店員さんが肩を落とす。

 気持ちは分かるよ。こいつめっちゃ可愛いもんな。


「でしたら! 次は貴女ですねっ♪ さあさあこちらへ来てください!」


「へっ? い、いや私は……」


 逃げようとしたら後ろからがっしりと奈那に羽交い絞めにされた。


「えーなーちゃーん? どこ行くのかなぁ~?」


 くっそ! ルキヤを見るのが楽しすぎて次が私だって事完全に忘れていた!


 どうやら私は逃れるタイミングを完全に逃してしまったようだ。


「さぁさぁさぁこちらへ♪」


 この店員……笑顔が怖すぎる。


 今度はそんな私を、ルキヤが鼻息を荒くしながら見つめる番だった。

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