第21話:彼氏と彼女と【欲望の代償】。


 おいルキヤてめぇこの野郎! 一人で満足そうな顔しやがってホームから突き落としてやろうか!?


「はぁ……尊みが深すぎる」


「何が深いって?」


「ううん、絵菜ちゃんは気にせず奈那ちゃんとイチャイチャしててね」


 こんにゃろう……。


「ほら、あこちゃんもそう言ってるしぃ~私達はイチャイチャしましょ?」


 奈那が私の腕に絡みついてきてそのでかいものを押し付けてくる。


 うっわマジかよめっちゃやらけぇな。


 同じ女とは思えない乳力に私も少しドキドキしてしまった。


 そしてまたルキヤを喜ばせてしまうわけだ。

 違う、こんな筈では……。これじゃあ本当にルキヤに対してのご褒美でしかないじゃないか。


「あ、電車来たよー♪」


 奈那はさっきまでの話をコロっと忘れたかのように私の腕を離して向かってくる電車に向かって手を振った。


 子供か。でもそういう所が天使。


「あ、車掌さんが手振ってくれたよー♪」


「うんうん、良かったねぇ」


「絵菜ちゃん、バカにしてる?」


「してないしてない。奈那はいつまでもその純粋さを失わないでね」


「あははっ何それー?」


「尊い……」


 ルキヤの呟きが耳に入ってくる度に正気に戻ってしまう。

 女の子同士のノリっていうのは確かに存在して、普段よりもテンションは上がるし私だって悪ふざけしたりもする。


 が、こいつが居るとその都度ハッ!? ってなって急に恥ずかしくなるから困る。


「ささ、早く乗ろう? 結構すぐ閉められちゃうから」


 そう言って奈那が先に電車へ乗り込んで行く。


 そう言えば電車が混んでる時に、ちょうど改札前辺りに居て降りる人を待ってる間にドアを閉められた事があったなぁ。


 あの時は奈那と二人でホームで笑い転げた覚えがある。


 まだ乗ってねぇし!

 降りる人もまだ居たよ!?


 みたいな感じで。

 懐かしいなぁなんて思いつつ、ルキヤの手を引っ張って電車に乗り込む。


「でもほんとにあこちゃんって可愛いねぇ~タダコー君が惚れちゃうのも分かる気がするなぁ~♪」


 それは言わないであげて。ほらルキヤ顔面蒼白になってるから。


「……その話題は……ちょっと」


「あー、やっぱり迷惑? タダコー君って結構惚れっぽいからねぇ」


 ルキヤが露骨に嫌そうな顔をしたので私はここで仕返しをしておく事にした。


「それがあいつ今回はマジなんだってさ。本気で一目惚れしちゃったんだって。あことどうやったら仲良くなれるかって必死だったよ」


「うげっ……」


「そうなのー? 相手が誰だったとしても真剣に好きって感情をぶつけられるのっていいよね~♪」


 恋に恋するような瞳で奈那が遠くを見つめたのがちょっと気になった。


「奈那、まさか誰か好きな男でも居るのか?」


 もしそんなのが居るなら私が査定してやらにゃならん。変な奴に奈那はくれてやれないからな。


「それが……ずっとアピールしてるんだけどなかなか気づいてくれなくって……きっと私の事なんて……およよ……」


「マジかよ……どこのどいつだそれ。私がぶん殴ってやる」


「「はぁ……」」


 何故か奈那とルキヤの溜息が被る。


「え、何? どういう事?」


「あのね、絵菜ちゃん。ここはタイミング的に分ってほしかったなぁ~」


「そうだよ絵菜ちゃん。さすがに鈍いっていうか酷い」


「待って。本気で理解できないんだけど」


「私の彼氏があんな事言ってますよあこちゃん」


「本当に酷い彼氏だね奈那ちゃん」


 がしっ!


 待て待て。急に二人が良き理解者見つけたみたいな顔してがっしりと握手をしてるんだけど私にも分かるように状況を説明してくれないか。


「あのね、絵菜ちゃんボクが説明してあげてもいいけど流石に野暮だからね? そういうのをさっと理解してあげるのも彼氏力ってやつなんじゃないのかな?」


「いや、彼氏じゃねぇし私女だし」


 こいつの態度見てどういう状況なのかは一瞬で分かった。

 つまり奈那がアピールしてる相手は私、っていう悪ふざけをした訳だ。


 で、こいつはそれを真に受けてテンションが上がったけど私が理解してないのを見てダメだしをしてきた、と。


 腹立つーっ!


「あこも奈那もいい加減からかうのやめろって。買い物行く前からどっと疲れちまったよ……」


「ごめんなさーい♪」

「ボクは謝らないからね。どう考えても絵菜ちゃんが悪い」


「へいへい私が悪ぅございましたー」


 完全に勘違いしてるルキヤは放っておくとして、こうやって下らない話をにぎやかに出来るのは、まぁ結構悪くない。

 それに奈那がとっても楽しそうにしてるから私としても今日をセッティングして良かったと思う。


「ねぇ、絵菜ちゃん……約束忘れてないよね?」


 ルキヤが小声で囁いてきた言葉を聞くまでは。


 そうだった。


 私には今日、とんでもないミッションがかせられているんだった。


 忘れていたかったがこいつの血走った眼を見る限り、そういう訳にもいかないようである。


 どうしてくれようか……。

 困った。

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