第20話:天使の【悪ふざけ】。


「おっそーい!」


 私達が待ち合わせの場所にたどり着いた時には奈那が既に来ていてぷんすか怒っていた。


「ごめんごめん、ちょっと準備に時間かかっちゃってさ」


 待ち合わせ場所は大川駅前の本屋。

 そこへ行くには先日の商店街を突き抜けていく必要があるんだけど、今回ルキヤはスカートの丈が気になるのかなかなか進んでくれなくて困った。


 服屋を見つけるたびにズボン買う! とか騒いで、それを無理矢理ここまで連れてきたんだから私を褒めてほしい。


「絵菜ちゃん?」


 もはや可愛さゲージが振り切っちゃってるんだよなぁ。

 最近ルキヤよりもあこの方が女として身近に感じられる分安心する。


 私もちょっと変な感じだけど、これもある意味お互いの距離が近付く理由になるなら有りなのかな。


「絵菜ちゃんってばっ!」


 ……って、別に本気で近付く事が目当てじゃないはずなんだけど……。

 私大丈夫かなぁ。


「聞けーっ! とりゃっ!」


「ひゃあぁぁっ!?」


 多分生まれて初めて出したような声が出た。

 だって、だっていきなり胸つつかれたんだもん仕方ないでしょ!?


「へへへ~ん。あの時のお返しっ!」


「もうっ! 奈那のばかっ!」


「絵菜ちゃんが私の話全然聞いてくれないからだし? なんなら最初にこれやってきたの絵菜ちゃんだからばかなの絵菜ちゃんだよねかわいそう……およよ」


「およよじゃねぇよまったく……」


 奈那のわざとらしい嘘泣きの仕草が可愛かったのでまぁ許してあげよう。


「それはそうと、そっちの子が例の子?」


「あこ、ほれ自己紹介しろ」


「う、うん……その、あこです……よろしく」



 奈那と直接会話するのが緊張したのか、不安だったのか分からないけど顔は真っ赤だし若干前かがみだし失礼な奴だなあ。


「もっとちゃんと挨拶しろよな……」


「大丈夫だって♪ あこちゃんね? 今日は一緒にお買い物付き合ってくれるんでしょ? よろしくね☆」


 相変わらず奈那は天使だった。こんな失礼な奴でも笑顔で許してくれるし。


「じゃあ早速だけど早く電車乗ろ? 犬袋まで五分くらいだけど、乗ってから話した方がいいよね♪」


 奈那は私とあこの手を掴んで小走りで駅のホームへ走る。


「ちょっ、奈那! 犬袋行くならホーム逆側だってば!」


「あれっ、そーだっけ? ごめ~ん」


 よく使ってる駅なのにこの子はすぐ間違えるんだよなぁ。そういう所も可愛い所だけど。


「ほら、改札通っちゃったしこっから向こうへ行こう」


 一度線路の下を潜るように階段を降りて、反対側まで行って階段を上がっているうちに一本電車が行ってしまった。

 ついでに言えばその次とさらにその次の電車は急行なので通過してしまう。


「うぅ……ごめんねぇ? 最初からこっち来てれば間に合ってたのに」


「大丈夫だよ奈那ちゃん。そんなに慌てなくても水着は逃げないぐえっ」


 思わず私はルキヤの脇腹に肘を入れていた。

 小声でルキヤの耳元へ囁く。


「お前余計な事言うなよ? 私がベラベラ喋ったみたいになるだろうが」


「ご、ごめん」


「んー? どうかしたの?」


「なんでもないよ。奈那は気にしないで」


 慌ててごまかしたけどそれを妙に誤解されてしまったらしい。



「なんか怪しいなぁ? 二人って随分仲がいいんだね? もしかしてルキヤ君の親戚だから前から交流があったのかな?」


 奈那が口元に人差し指を当てて「むむむっ?」とか言い出す。こういう時の奈那は探偵モードなのだ。めんどくさい。


「別にそういう訳じゃないけど、まぁそれなりに仲はいいよ」


「そ、そうだね。ボクも絵菜ちゃんとはずっと前からげふっ」


「おまっ、ずっと前からとか言ったらダメだろ!」


「そ、そうか、難しいな……」


 そんなやり取りを見て奈那がケラケラ笑いだす。


「ほんと仲いいなぁちょっと妬けちゃうかも。でもあこちゃん、絵菜は私の彼氏だから取っちゃダメだよー?」


「彼氏……? そうか、やっぱり立ち位置はそっちか……」


 何を納得してるんだテメェは……。


「私はいつから奈那の彼氏になったんだ? それに私は女だっつの」


「えー、彼女よりは彼氏でしょ?」


 とか言いながらにっこにこな奈那を見てると否定するのも馬鹿らしくなってくる。


 そして、必死に鼻息が荒くなるのを我慢してるルキヤを見てるといろいろ考えるのも馬鹿らしくなってくる。


「やっぱり、二人って……その、つ、つ、付き合ってたりするの!?」


 あーあ、ついに言いやがったこいつ。

 そんなの悪ふざけが好きな奈那が乗っかって来ない訳ないじゃないかまた面倒な事になる……。


「もっちろん!」


 ほらみろ……。


「だよね!? やっぱりそうだよね!? でも絵菜ちゃんに聞いたら付き合ってないって言うから……ボクとしては二人を全力で応援するからね!」


「わぁ~ありがとう♪ でも絵菜ちゃんも酷いなぁ私と言う物がありながら……およよ……」


 悪ノリが好きにも程があるぞ。

 これ以上無駄にルキヤを喜ばす燃料を投下してやるのもなんか癪なんだよなぁ。


「私はノーマルだから女の子とは付き合わねぇよ」


「えー、酷い私の事は遊びだったのねっ!」


「遊びも何も手を出してないわ!」


「でも絵菜ちゃんってば教室でいきなり私の胸を……あれも遊びだったっていうの?」


「違うっ! アレはだな……」


 それこそ、あれは悪ふざけだったんだと言い返してやろうとしたところでルキヤがまたとんでもない爆弾を投下しやがった。


「そう言えば奈那ちゃんの乳首つついたって喜んでたもんね!」


「ばっ、バカ野郎! お前何言ってんの!? 奈那、違うから、語弊がめっちゃ盛られて意味が改竄されてるからっ!」


「……ば、ばかぁ……」


 奈那も急に顔真っ赤にして俯かないで反応に困るからっ!!

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