第19話:危険すぎる【取引】。


「な、なぁ……写真撮っていいか?」


「だ、ダメに決まってるでしょっ!? それをネタに強請る気だよね!?」


 こいつは私をなんだと思ってやがるんだ……。確かに恥ずかしいポーズの写真撮って強請りたいとか思った事もあるけど、あるけど!


「違う。そんな事は絶対にしないと約束してやるから、な?」


「うーん……いまいち安心できないんだよなぁ……」


「頼むっ! ほら、その可愛い姿を写真に残さなきゃもったいないだろ??」


 私は何を必死になってるんだ……女の子に必死に写真撮らせてって懇願するキモオタみたいになってるぞ。

 分ってるけどこれは撮らなきゃ勿体ない。


「……いい、けど……その代わり条件がある」


「おう、なんだ? 言ってみろ。胸でも触るか?」


 勢いでとんでもない事を口走ってしまった気がする。が、もしもこいつが望むのであればそれくらい許容できる。


「やだよそんなの触りたくない」


「ぶっ殺すぞ!?」


「いいから、お願い聞いてくれる? 聞いてくれないなら写真もダメ」


 ……くっそう。私の自尊心はズタズタだよ……。


「で? 何をしてほしいんだ」


「あのね、あのね!」


「お、おう……?」


 ルキヤが突然身を乗り出して私に迫ってきた。


「ちょっと、近い近い」


 もうキスする距離じゃんこんなの……違うって分ってても目閉じちゃうじゃん……。


「キスしてほしいんだ」


「……っ、ほ、本気なの……?」


「冗談でこんな事言わないよ! で、してくれる!? ほっぺとかでいいからさ!」


「……べ、別に私は……口同士でも……」


「ほんとに!?」


 なんでこいつこんなに喜んでるんだよ……あんなに私に興味ない素振り見せておいて急にこんな態度取られたら、私……。


「うん……いつでも、いいよ」


 私が覚悟を決めて目を閉じて待っていると、


「……? 何してるの?」


「え? だって……キス、するんでしょ?」


「馬鹿だなぁ。相手も居ないのに準備してどうするの?」


 ちょっと待て。

 どういう事?


「だって、二人きりの時にキスしてって言ったら、そりゃ普通期待するだろ……? 違うの?」


「ボクが? 絵菜ちゃんと? マジで言ってる?」


 せっかくメイクした可愛らしい顔がくしゃっとしかめっ面になった。


 待て待て待て。分かったぞ、こいつの考える事なんてどうせそう言う事だよな?


「今日のデート中に、どこかで奈那ちゃんにキスして。約束してくれるなら写真撮ってもいいから」


「ですよねぇぇぇぇぇっ!! クソがぁっ!!」


「何怒ってるの? カルシウム取ってる?」


「取ってるよ! 毎日毎朝牛乳一リットル飲んでるよぉっ!!」


「……なんでそんなに飲んでるの……?」


「うるせぇっ!!」


 胸を大きくしたいからだなんて口が裂けても言えない……。


「もしかして絵菜ちゃん……胸のサイズ気にしてる?」


「うるせぇなぁ! 気にして悪いかっ!」


 なんで分かるの……?


「小さくたっていいと思う。そんな事気にしないよ」


「……ほんとに?」


「奈那ちゃんが相手の胸のサイズなんて気にするわけないじゃん。大事なのは気持ちだよ!」


「……もう本当に殺すか」


「ちょっと何言ってるか分からないんだけど……で、今日奈那ちゃんと口同士でキスしてくれるんだよね! それなら何枚撮ってくれてもいいよっ!!」


「待ってくれ! 頼む……ほっぺにしといてくれ……」


「えー? 男に二言はないでしょ普通」


「ごめん……」

 私女だけど……。


「しょうがないなぁ……じゃあほっぺたでもいいよ。その代わり一枚だけね。もっと男らしい所見せてほしかったなぁ」


「わ、分かった。それでいい。……ありがと」


 私女だけどな。


 ……こうなったら、最高の一枚を撮ってやるぞ。妥協は許されない。


「はい、どうぞ。いつでも撮っていいよ」


「あ? お前ふざけてんのか……?」


「ふざけてないよ。写真撮るんじゃないの?」


「撮るさ。だからポーズの指定くらいさせろ」


 一瞬ルキヤが「うっ」と呻くが、私の気迫に押されたのか「分かったよ……」と納得してくれた。


「よし、じゃあ座れ」


「うん」


 私の部屋にあるソファにルキヤがちょこんと座る。それはそれで可愛いかもしれんがそう言う事じゃねぇんだよ。


「なにしてんの? 床だよ」


「えっ、床? 別にいいけど……」


「おいコラ、あぐらかくんじゃねぇよ。ちゃんと女の子座りしろ」


「えー? 女の子座りって足外向きにするアレでしょ? 普通男の子は出来ないんだってば……あ、できた」


 さすがあこ! お前なら出来ると思ってた。


「で、ちょっと足開け」


「は、恥ずかしいよ……」


「いいから。足開いて片手でスカート押さえろ」


「うん……」


 恥ずかしがりながらルキヤが私の指定したポーズを取る。もう一声!


「よし、じゃあもう片方の手は口元に当てて、上向け。そう、こっちだ」


 私は上から見下ろすようにルキヤをスマホ画面に映しこんでいく。


 これはいい。だがまだいけるだろ?


「ルキヤ、この写真、みんなに見られたらどうなるかな」


「ひ、酷いっ! そんな事する人じゃないって信じてたのに!」


「お前が言う事聞けばそんな事はしない。だからこっち向け。ポーズを崩すな」


「ふぇぇ……ほ、ほんとに? 約束だからね……?」


 それだ、その顔だよ……。


 はぁぁぁぁぁ……マジ可愛い。


「ありがとう。いい写真が撮れた」


「ボクにも見せてね?」


「おう、後でちゃんと見せてやるよ」


 私が今撮ってた動画から切り抜いたスクショをな。

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