第15話:【コンプライアンス】的にNG。


「で、お前らはいつまで居るつもりなんだよさっさと教室へ帰れ」


「だってもう一時間目始まっちゃってるし次の授業までいいじゃん咲耶ちゃんと話すの楽しいし」


 私は最初ルキヤを心配して保険委員になったはずなのに、だんだんこいつが保健室に来なくなった。

 用事や他の人の介抱の為保健室に来る回数は減らず、必然的に咲耶ちゃんといろいろ話をする機会が増えてしまったのだが……。


 このやさぐれロリ保険医はかなりぶっきらぼうだし言葉遣いも悪いし乱暴だけど、とっても面白くて優しい人なのだ。


 親以外で一番信頼している大人と言える。


「どうでもいいけどその咲耶ちゃんっていうの辞めろや。私こう見えてもうすぐ三十路だぞ」


「確かに、こう見えても、だよね」


「殴られなきゃ分かんねーらしいな」


 咲耶ちゃんはとても若く見えるし、目つきが悪いのと目の下のクマさえどうにかすれば十分私達と混ざっても十代で通用するレベルなのになぁ。


「あ、あの……ぱふぱふゆりえっち先生はよく保健室に来るんですか?」


「……今なんて?」


 私はつい無意識にルキヤの頭を叩いていた。


「いだっ! 絵菜ちゃんなにすんのさ!」


「なにすんのさじゃねーだろ。お前もう少しぱふぱふゆりえっち先生の秘密を守ろうとしろや可哀想だろ!」


「だってぱふぱふゆりえっち先生はぱふぱふっゆりえっち先生じゃないか! あんな素晴らしい功績があるのに隠すなんてもったいない!」


「ぱふぱふゆりえっち先生だって秘密にしたい事の一つや二つあるだろうが! お前はそういう空気読めないところがあるから私が迷惑するんだよ!」


「なんで絵菜ちゃんが迷惑なのさ!」


「そんなお前の事好きなんだから仕方ないだろうが!! ぶっ殺すぞ!!」


「……だからそれは無いって。マジで、あり得ないからやめて気持ち悪い」


「咲耶ちゃん! こいつぶっ殺していいよね!? まさか止めたりしないよね!?」


「……あのな、めちゃくちゃ面白い展開になってて私は大笑いしたいくらいなんだがその前に一つ聞かせてくれないか?」


 なんだよこの大事な時に。私の気持ちを弄ぶこいつをぶっ殺して私も死んでやる!


「まぁ、涙拭けよ……。というか私が気になってるのはさ、その……ぱふぱふ? ゆりえっち先生? ってのは何の話だ? なんだかとてもひどい呼び名だが……」


「ぱふぱふゆりえっち先生っていうのは、今そこで寝ている生徒かいちょ……」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 阿呼辺君って本当に空気読めないの!? 馬鹿なの!? 女の敵!! 殺してやる!! いやむしろ私を殺せーっ!!」


 生徒会長が復活し、顔を真っ赤にしてルキヤに襲い掛かったので、私も参戦してルキヤに天誅を下してやろうとしたんだけれど、咲耶ちゃんの暴力的指導が私の脳天に炸裂し、ルキヤ殺害は中断した。


 一瞬で冷静になる。

 私は何を人前でルキヤの事が好きだなんて言っているんだ恥ずかしい……。


 それに何のための計画なんだ。焦るな、ちゃんと道筋を立ててじっくりと攻略して最後に突き落とすんだ。落ち着け……。


「すーはーすーはー……」


「先生後生です! 止めないで下さい! この子は殺さなきゃダメな奴なんです!! 私の人生がかかってるんですよ! もしそれが認められないのならば私を殺してっ!! 殺してよぉ……」


 いくら咲耶ちゃんでも生徒会長をぶん殴るような事はせず、羽交い絞めにして落ち着くのを待つ。


 やがて涙で顔をぐちゃぐちゃにしたぱふぱふゆりえっち先生はぺたんと地面に崩れ落ち、静かに、震えた声で私達に懇願した。


「お、お願いします……なんでもしますので、私がぱふぱふゆりえっちだという事はどうかご内密に……」


「私は構わないよ。同じ男を殺したいと思った仲間として約束は守る」


 この人は他人とは思えない……ルキヤに人生を狂わされた人の一人、と数えていいだろう。



「佐々木さん……! あじがどう……!!」


「なんで? ぱふぱふゆりえっち先生はあんなに素敵なゆりえっち漫画を描くのに正体を秘密にする必要なんて……」


「鬼……あぐまぁ……ここに鬼畜外道が居ます先生なんとかして下さぃ……ふぇぇぇ……」



 ……心底同情するよ生徒会長。


 咲耶ちゃんはそんな生徒会長の様子をかなりドン引きで眺めていたが、教師としての対応を迫られていると感じたらしくとてもうわっつらで取り繕った言葉を並べ立てた。


「あー、あーね。そー言う事ね。私は勿論秘密は守るし生徒を悲しませるような事はしないから安心しろ。あと阿呼辺、お前は人の秘密を暴くような事をするな。今はコンプライアンス的な問題でいろいろ世の中厳しいんだ。本人の意思を尊重しろ。頼むから。面倒、嫌」



 最後の方めちゃくちゃ本音が漏れてたけど、一応教師からのお言葉なのでルキヤもしぶしぶ納得した。


「じゃあボクはこれからぱふぱふゆりえっち先生の事を何て呼べば……」


 いや、普通に生徒会長って呼んでやれよ……。



 そして今になって気付いたんだけど、私や生徒会長にまで殺す殺すと殺意を向けられたというのにこいつまったく気にもしてねぇ……。



 お前の倫理観どーなってんの……?

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