第13話:担任は【横暴】保険医。


「あこちゃん、か……私その子すっごく気になるんだけど♪ 今度一緒に遊んだりできないかな?」


 来た!

 計画通り奈那が食いついてきたぞ……。


「勿論♪ 私もあこに奈那を紹介したかったんだよね。ちゃんとセッティングしとく。いつ頃がいい?」


「ま、待ってくれ俺も……!」


「タダコーはダメ」


「なんでだよ! 俺は本気なんだ」


 何が本気、だよ。あこの何も知らんくせに。

 それにあこもお前には会いたくないだろうぜ。



「よく考えてもみろよ、今回は私が奈那を紹介する為のセッティングなんだぞ? 女の子同士で盛り上がる為の会に野郎が混ざってくるんじゃねぇよ」


 ……う、私今ルキヤみたいな事言ってない?

 いや、別に変な意味じゃないんだからあいつとは違う、絶対違う。


「なんとか、頼むよ! 特別に……!」


「……なぁ、それ以上しつこいと……」


 私は自分のスマホを手に取り、昨日タダコーのスマホを映したデータを見せてやった。


「うっ、ひ、卑怯な……っ!」


「あーそういう事言うんだ? 全然反省してない感じだよね。って事はこの情報を私がどう扱ってもいいって事かな?」


「分かった! 分かったから勘弁してくれ……今回は諦めるから。でもそのうち会う機会を作りたいんだよ」


 ……めんどくせぇなこいつ。本当にあこにバラすぞ?


「そもそもなんで私に頼んでるんだよ。むしろそれを頼むなら適任がもっと居るんじゃないか?」


「……適任? ……あっ、そーか! ルキヤに頼めばいいんだ!」


 タダコーがそう叫んだ瞬間、ルキヤは立ち上がって教室からどこかへ走り去った。


 もうすぐ授業始まるっていうのに。


 やっぱり情報っていうのは毒であり武器だなぁ。


 ルキヤは保健室だろうか? 後で様子を見に行ってやろう。

 下手するとこのまま家に帰っちゃう可能性もあるから気を付けてやらないとな。



「おいテメェら席につけー。あと五秒で席に着かない奴は教育的指導なー」


 担任の咲耶ちゃんが生徒を脅しながら教室に入ってきたので、真っ先に声をかける事にした。


「咲耶ちゃん、ルキヤが具合悪くて保健室に行ったところなんだけど」


「えー? なんで私がここに来るの分ってて今保健室行くんだよバカなのか? あと咲耶ちゃんって呼ぶな」


 うちの担任の織姫(おりひめ)咲耶(さくや)、通称咲耶ちゃんは人手不足で臨時の担任をやってるだけで本当は保険医なのである。


 保健室に行っても大抵本人がベッドで寝てるけど。


 いつも頭はボサボサなのに髪が腰くらいまであるから後ろからみると妖怪みたい。

 そんでとにかく背が小さい。

 コロボックルみたいな感じだけど、妖精なんかと絶対的に違うのは、目がやさぐれてるところだと思う。

 大酒飲みだしヘビースモーカーだし、誰がみてもかなりのダメな大人というやつだ。


 保険医らしくいつも白衣を羽織っているけど、背が小さすぎてサイズが無いらしく、地面に裾をずってるし袖はいつも余ってる。


 それが可愛いと言い出す男子も最初は居たけど、あまりにガサツというか乱暴者なので最近はみんな彼女に逆らおうとはしない。


「もうめんどくさいから放置でいいか……いや、流石にそれも問題になったら困るし……おい佐々木、お前が行って様子みてこい」


 どうせこうなると思った。だから敢えて先生に声をかけたわけで。


「分かりましたー。じゃあ行ってくるね咲耶ちゃん」


「あーよろしくなー。あと咲耶ちゃんって呼ぶなっつってんだろぶっ殺すぞ」


「はいはーい織姫ちゃん行ってきまーす」


「てめぇいい加減にしろやーっ!」


 廊下に出た私に、ドアから半分身体を出して叫んでくる。


 あれで口が悪くなければ本当に可愛い先生なんだけどなぁ。


 さーて、保健室保健室……私も保健室へ向かうのは結構慣れたものだ。


 何せ保険委員だからね。形だけだけど。

 一年の時にルキヤが頻繁に保健室に行くので見るに見かねて保険委員に立候補したのがきっかけで、それからなし崩しに二年になっても保険委員をやっている。


 もうルキヤが保健室行く事なんて滅多に無いんだけどね。



 廊下を進み、一階まで降りて玄関近くにある保健室の扉をガララっと開ける。


「おいーっすルキヤ、生きてるかー?」


「あっ、絵菜ちゃん……ここ保健室だよ? ちょっと静かにしようよ」


「何言ってんだお前、ここにはお前以外いないだろうが」


 なにせ保険医が今教室に居るんだから。


「いやいや、一人ベッドで寝てる子が居るんだってば」


 ……一時間目からベッドで寝て過ごそうなんて随分といい身分だな。


「どれ、ちょっと顔でも拝んでやろうかな」


「ダメだよ絵菜ちゃん、やめなよ」


 まったく、こいつは学校じゃいい子ちゃんすぎるんだよなぁ。真面目も度が過ぎると損をするぞ?


 ルキヤの言葉を無視してザーッとベッドを囲うカーテンを開ける。


「ひゃっ!?」


 あー、ほんとに人居るや。しかもこの人……見た事あるな、っていうか……。


「げっ、生徒会長……?」

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