第12話:双丘を携えし【天使】。


「おっはよーっ♪」


「ぐえっ」


 翌朝学校へ投稿し、席に着くやいなや背中に何かがのしかかってきた。


 いや、それが何かなんてわかり切ってるんだけどさ。


「おはよ奈那。それはそうと私の肩に乗ってるその重たいのをどけてくれない?」


「ひっどーい! 私そんなに太ってないもん!」


「いや、太ってるなんて言ってないでしょ? 肩に乗っかってるそのでっかいの二つどけてって言ってるだけだよ」


「セクハラよ! セクハラ大魔神が居るわっ!!」


「うへへへ私がもっと大きくしてやろうか!」


「やだっ! これ以上大きくなったらブラのサイズが無くなっちゃう!」


「あぁん? それは私に対する嫌味と取ってよろしいか!?」


「やだこわぁーい♪」


 まったく。毎朝毎朝この子もよく飽きもせずこんなテンションで絡んでこれるもんだ。


 可愛いし楽しいから許しちゃうけど。


 ……なんか鋭い視線を感じて、廊下の方を見ると……窓の向こうからルキヤがこっちをガン見していた。


 あれは……出来る限り冷静を保とうとしているけどめちゃくちゃ興奮している顔だ。


 ふふふ……悔しかろう?

 これを目の前で見れないのはさぞかし悔しいだろうなぁ?


 一度甘い蜜を知ってしまったらもう後には引けないのだよ。

 今までの刺激じゃ我慢できなくなってルキヤは再び女の子である事を求めて来るはずだ。


 それも、きっとすぐに。


 学校ではせいぜい悔しがっていればいい。

 ここでは私も思う存分いつも通り奈那と楽しい会話でも繰り広げてやろう。


「絵菜ぁ~? どうしたの? 何見てるの?」


「んー? この教室に奈那の事好きな奴が居たら今頃悔しがるだろうなぁ~って思ってね」


「あははっ♪ 居ないよそんな人。っていうか悔しがるってどうして?」


「奈那は私の物だからね。どこの馬の骨かわからんような奴にくれてやるわけにはいかんのである!」


「やだ……かっこいい♪」


「ガハハ! そうだろうそうだろう。惚れてもいいぞ?」


「あぁん大好き~☆」


 ちょっと悪ふざけが過ぎたかもしれん。

 というか奈那のノリが良すぎてついやっちゃうんだよなぁ。


 今も再び私の後ろからめっちゃ抱き着いてきてるし。


 そしてルキヤが顔を手で覆って指の隙間から血走った目でこっちを見てる。


 ざまーみろ!


 悔しかったら女の子になってみやがれバーカ!



 私の彼氏になってればすぐ隣でこれを見れたかもしれないのにね。


 って、私はまだ未練があるのか?

 違う違う。

 しっかりしろ。


 ルキヤと付き合うくらいなら同性だろうと奈那の方がよっぽどいい。


 ……いや、それはルキヤが喜ぶだけなんじゃないか?


 うぉぉぉ……私はいったいどうしたら。



「お、おい絵菜……」


 悩む私に、糞野郎が声をかけてきた。


「タダコーじゃないか。何かね?」


「あ、タダコー君おはよー♪」


「あ、あぁおはよう。絵菜、ちょっといいか?」


 まったく。この超絶美少女の奈那が挨拶してくれたって言うのにその適当な反応はなんだ?



 まぁ私に用事なんて昨日の事しかないだろうけどね。


「ここでいいじゃん。何の用?」


 これは昨日の罰。あのお金だけで許してなんてやらんのだ。


「あ、あぁ……その、ここじゃちょっと……」



「えっ!? なになに? もしかしてタダコー絵菜に告白でもする気? この子は私のだからねっ!?」


 そう言って奈那が背後から私の頭を抱きかかえてくる。


 どうでもいいけど胸の谷間に後頭部がうずもれてる感じが割と気持ちいい。


「奈那、そういうんじゃないよ。タダコーはちょっと私に聞きたい事があるだけだよね? 勿論、アレは本人には言ってないから安心しな」


「マジ……? ほんと頼むよ。俺、あれから家でいろいろ考えてたんだけど、やっぱり割とマジになっちゃいそうで……」


「なになに!? 何の話!? 私もまぜてよー」



 奈那ったら無邪気すぎ。可愛いったらない。


「私の友達にタダコーが惚れちゃったって話だよ」


「ははーん、なるほどなるほど。タダコー君は私に惚れてしまったのか」


 奈那が腰に手を当ててふんぞり返ってるのがなんというかアホの子かわいい。


「ばっ、そんなんじゃねぇよ! 昨日絵菜があこちゃんっていう子を連れて歩いてたんだよ」


「へぇ~。で、タダコー君はその子に一目惚れしちゃったって事ね? でも私そのあこちゃんって知らないんだけど……」


 奈那が私にじとーっとした視線を送ってくる。

 きっと、なんでそんな仲のいい子がいるなら教えてくれないの? っていう意思表示だとは思うけど……。


 廊下で息を荒くしながら血走った眼でこっちを見てる奴は放っておいて、だ。


「ルキヤの親戚でね、あこっていう女の子が居るんだけど、今ちょっと訳アリでさ。たまに面倒見てあげてるって訳」


「なんだって!? あこちゃんってルキヤの親戚だったのか!? なんてこった……でもそれならまた会えるぞ!! よし、俺にもまだチャンスはあるな」


 私が近くに居る時点でそのチャンスは灰燼に帰すぞ。間違いなくな。


「ルキヤ君の親戚……そのあこちゃんって子そんなに可愛いの?」


 奈那程じゃないよ。と言いたいところだが、私は目に幾つか妙なフィルターがかかっちゃってるから一概に即答は出来ない。


「あこちゃんめっちゃ可愛いんだよ……小さいし、細いし、白いし、清楚だし……」


 その時ちょうど、タダコーが会話に混ざった事が気に入らなかったのか、ルキヤが教室内に入って会話内容を盗み聞きしに来ていた。


 そして、タダコーが自分に気が有る事を聞いてしまい、絶望に染まった顔に変わる。


 そんな顔私も見た事ないぞ。


「あぁ……あこちゃんと付き合いたい……俺頑張るから!」


「……」


 当のあこちゃんはそれを聞いて顔を真っ青にしてますがな。


 残念だったなタダコー。お前の燃えるような恋心は相手にとっては絶望らしいぞ。

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