第11話:ラノベ主人公耳の【百合ボケ】野郎。


 ルキヤに対する嫌がらせと、今後の事を考えて場慣れさせようとしたお出かけだったというのに、気が付けば私だけがとてつもなく疲れた感じする。


 こんなはずじゃなかった。

 ルキヤはルキヤで買った靴はすぐに履いて、なんだかとても嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねてる。


 まぁ、喜んでくれたならいいけどさぁ……。

 なんか当初の予定と違うんだよなぁ……。


「ねぇねぇ絵菜ちゃん!」


「お? どした?」


「……えっと、その……いろいろ、ありがとう」


 なんじゃそりゃ。

 私は嫌がらせのつもりで女装させたっていうのに。

 こいつの言う百合百合展開を近くで見たいっていう欲望で釣りあげて困らせてやろうと思っただけなのに……。


 こんな純粋な笑顔されたらくっそう……。


「見てよこの靴♪ どうかな?」


 そう言ってその場でくるんと一回転。

 靴を見せたかったんだろうけど私はそのふわっと広がるスカートとか、遠心力でふぁさっと顔にウィッグがかかった時の表情とか、そんな事ばかりに視線が行ってしまう。


「あー可愛いなクソが!」


「えー? なんで怒るの? すっごく可愛い靴なのに……」


 可愛いのは分かってんだよ畜生……。


 どうしてお前はそんなヘンテコな性癖で生まれてきてしまったんだ。


 ……いや、考え方を変えた方がいいのかもしれない。

 こいつが普通の性癖だったら今頃誰かほかに彼女が出来ていて、私とは関わる事なく生きていたかもしれない。


 だったら、こうやって二人だけの秘密を共有できている現状っていうのはある意味アリなのかもしれない。


 ……なんで私こんな事で悩んでるんだろう。

 目的を忘れるな。


 私を酷い振り方したこいつに仕返しをしてやるんだから。


 その為の作戦なんだからね?

 勘違いしないでよ。


 ……誰に言ってるんだ私は……。


「絵菜ちゃん聞いてる?」


 顔を覗き込んでくるな。


 効いてるよ。めっちゃ効いてる。いい加減にしてほしい。


「しかしその姿にも抵抗が無くなってきたんんじゃないか?」


「えっと……まだ、さすがに恥ずかしいけど……。でもね、今日だけであんなに良い物が目の前で見れたでしょう? これはボクだけに与えられた特等席なんだなって思うともう高まっちゃって高まっちゃってぐふふっ」


「そのぐふふって笑い方辞めろさすがにキモいぞ」


「あっ、ご、ごめん! 気をつけないとだよね……バレたらボクもう学校いけないよ……」


 予言してやろうか?

 多分バレても学校で人気者になるだけだぞ。


「とにかく、バレないようにその格好してる時は女の子だって自覚を持って。きちんと意識して徹底する事。そして下手に一人称は変えなくていい」


「が、頑張る! ……でも、私とか言わなくていいの?」


「ボクのままでいい。そういう女の子も居るし、下手に無理すると一人称がごちゃごちゃになって後で不自然になるから」


 そもそもお前は学校じゃ無理して俺とか言ってる可愛い奴だけどな。


「わかった♪ やっぱり絵菜ちゃんは凄いな……やっぱりちゃんと女の子なんだなって尊敬するよ」


 それは喜んでいいのか?

 女なのは当然でしょ? やっぱりちゃんと女の子なんだなってどういう意味で言ってんのこいつ?


 まったく女と思われて無かったって事?


「ボクってさ、この姿になると……自分で言うのもなんだけどめちゃくちゃ可愛いでしょ?」



「……否定できないのが腹立つな……」


「だけどね、絵菜ちゃんもすっごくかわいいし、奈那ちゃんは当然可愛いでしょ? 三人で出かける事とかがあったら女の子の視線は釘付けだよね♪」


 突っ込みどころしかないんだけど何処から突っ込めばいい?


 私の事可愛いなんていうからドキドキしちゃったけど、よく考えたらさ、女の子の視線が釘付けってどゆこと?


 普通男どもの視線が集まるもんじゃないの?


 やっぱりこいつの思考回路は理解できない……。


「いつかそんな日が来るといいな♪ そしたら特等席でご褒美!」


「分かったから落ち着け。そのうち嫌でもそういう機会があるだろうよ。何せ私は奈那の親友だからな」


「敢えてそこで親友、を強調するあたりに尊みを感じる」


「わからねぇ……」


 尊みってなに?

 私ももう少しこいつの思考や趣向を勉強した方がいいのか……?


「早く至近距離でいちゃいちゃが見たいなぁ。ボクの事を気にして、もっといちゃいちゃしたいのに我慢したり、ボクが目を逸らした隙にキスしたり、そういう展開が待ってるかと思うと……ぐふっ」


「……どうして私こんな奴好きになったんだろ」


「何か言った?」


「なんも言ってねぇよこのラノベ主人公耳の百合ボケ野郎」


「とんでも無い言われようだね……まぁいいや♪ 今日はほんと楽しかったよ。じゃあまた明日ね♪」


「おう、じゃあな」



 ……って、おいおいおい。


「ちょっと待て!」


「……? どうかした?」


「お前その格好のまま自宅に帰る気か?」


「……あっ」


 本当に大丈夫かこいつ。

 私がしっかりフォローしてやらないとそのうち間違いなくバレるぞ……。


 私がいつでも近くで助けてやらないと……うん、これも全部目的の為だから。

 他に意味なんてないから。


 ないんだからね。

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