第10話:さらりと【尻を】触ろうとするアイツ。



「あら? あらあらあら? おねーさまこの子なんだかすっごく……」


 言うな、ヤバい奴なのは分かってるからそっとしておいてやってくれ。むしろ今ので男ってバレたりしてないだろうな?

 こいつももう少し危機感って物を持てよ。慣れるの早すぎるだろ……。


「すっごく分ってらっしゃるんですのね!」


 どうしてそうなった。


「私がおねーさまの事大好きなのを知っててそんな風に言って下さるなんて……こっそり見てたって事は応援して下さっていたのかしら? 私貴女とは仲良くなれそうですわ♪」


「ぼ……私の事はいいから子兎さんは絵菜ちゃんともっと仲良くしてね!」


「変わった方ですのね……でも私とおねーさまを応援して下さるのなら大歓迎ですわ♪ それと私の事はうさこでいいですわよ☆」


 なんだなんだこれは。

 一人は私の手をぎゅっと握ったまま、そしてもう一人は私の背中に飛び乗ったまま当人である私を放置して盛り上がっている。


「うさこ、そろそろ降りろ。また叩かれたいのか?」


「はいですの♪ おねーさまの愛の鞭ならいくらでもこの身に与えてほしいですわ」


 ぱしんっ!


「いやん♪」


 バシン! ドバシン! ドドガバシンッ!


「いっ、いっ……お、おねーさまっ! なんだかちょっと尋常じゃない音がしてますのっ! ギブっ、ギブですわーっ!!」


「ならさっさと降りろ」


「わ、分かりましたの……うぅ……お尻が、お尻がぁ……」


「だ、大丈夫……?」


 ルキヤがあわあわしながらうさこの心配をしている。

 そう言えばこの二人大体身長が同じくらいか。可愛い妹が二人出来たような気がしてくすぐったい。


「痛いですの……ちょっとさすって下さりません?」


「う、うん……どのあたり?」


「お尻のちょっと下の方ですの」


「コラコラコラっ!! 何しとんじゃおのれらぁぁぁぁっ!!」


 油断も隙もあったもんじゃない!

 ルキヤに、お尻をさすってだと!?


「そんな不健全は認めませんっ! 私の目の黒いうちは認めんぞ! 絶対だ!」


「おねーさま? どうされたんですの?」

「そうだよ。変な絵菜ちゃん」


 待てよ。うさこはそっち系こじらせてるから仕方ないとしてだな。

 なんでルキヤまでそんな平然としてんだ……?

 当たり前のように女子の尻を撫でようとしやがって……。


 そうか、分かったぞ……。

 私はあまり気付きたくない事に気付いてしまった。


 こいつ、壊滅的に女子の身体に興味がないんだ……。


 純粋に、痛いっていうから心配で言われた通りにさすってやろうとしたんだ。男としてどうなの? もういっそほんとに女の子になっちまえよ……。


 それにだ、うさこもうさこでおかしいだろ。

 痛いところをさするって行為自体がそもそも痛い所を触る訳で余計痛いだけじゃねーか。

 いや、それ自体は反射的に痛みのある所を触っちゃう心理は理解できるよ。

 それを、女の子と勘違いしてるからといって他の子に触らせようとするか?


 女の子が女の子にお尻触って下さいって言うの? 馬鹿なの?


「……頭痛い……」


「おねーさま、大丈夫ですの? 具合が悪いんですの??」


「絵菜ちゃん大丈夫? 心配だよ……」


 ほぼ同時。

 二人がすっと手を伸ばして私の頭をなでなでした。


 一瞬何が起きたのか分からずぽけーっとしてしまったが、頭を撫でられているのを意識した瞬間顔が熱くなる。


「や、やめろやめろ! 何してんのお前ら……マジ疲れる……」


 うさこみたいな後輩に頭を撫でられるというのはある意味で屈辱だし、ルキヤに頭を撫でられるというのはそれはそれでムキーッ!!


「ちょ、ちょっと絵菜ちゃん、本当に大丈夫? 今日はそろそろ帰ろうよ。早く休んだ方がいいって」


「そ、そうですわね……せっかくこんな場所でお会いできたのでもっといろいろお話したかったですが……おねーさまの体調の方が大事ですわ。今日はこの辺りで退散しますの」



 ああ……そうしてくれると助かるよ。


 私はそれを口に出すのも億劫になって、首の動きと視線だけでそれを伝えた。


「ではおねーさま、あこさん。ごきげんよう♪ またお会いしましょうね☆」


「うん! またね子兎……じゃなくて、うさこさん」


「はぁ……次会う時までにはもう少し年相応の落ち着きを身につけてきてくれ」


「はいですのっ♪ 私、次に会うまでにもっともっとおねーさまへの愛を高めておきますわっ☆」


 こいつ人の話聞いてたのかな?

 聴力検査してもらおう?



「……すごい子だったね」


 ルキヤがなんだかにっこにこしてる。よほどうさこの事が気に入ったのだろうか?


 ああいうのがタイプなのかな?


「随分ご機嫌みたいじゃん」


「ぐふっ、すっごく良い物が見れたから……そうか、女の子になるって事はこの距離で見ていてもいいって事なんだね……アリだよこれはアリよりのアリだよ……」


 ……やっぱりこいつ女の子自体にはまったく興味ないんだな。

 女の子と女の子がいちゃいちゃしている所にしか興奮を得られない特殊性癖のヤバい奴なんだ。


 私もそろそろ学習しろ。

 そうじゃないと作戦が崩壊する。

 私がこいつをどうにかする前に、私の精神が崩壊してしまう。


 万が一、最悪の場合そんな事になろうものなら、……思い切ってこいつ殺して私も死のう。


 この惨めさともやもやとフラストレーションとやり場のない憤りを晴らすためには作戦の成功か、それしかない。


 見てろよ……絶対に惚れさせてやるからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る