第9話:【うさこ】とおねーさま。
「……あれ? タダコ……多田君は?」
私一人靴屋の中に戻ると、先ほどの靴が入った箱を可愛らしく胸元に抱えたルキヤが店員の視線が気になるのか頬を赤らめてソワソワしていた。
「タダコーは帰ったよ。ちなみにその靴のプレゼント代はちゃんとおいていったから。その靴でいいのね?」
「う、うん……可愛かったし」
にっこり笑うルキヤはもう見るからに完全な美少女で、美少女なはずなのに私はドキドキが止まらなかった。
「と、とりあえずさっさとそれ買おう」
「うん♪ 後で多田君にはお礼しないとだよね」
「ちょい待ち。まさかとは思うけど学校で会った時にお礼なんてするなよ?」
「……? どうして?」
おいおいこいつアホなのかバカなのかアホの子なのかそうかアホの子か。
「お前今あこだぞ? ルキヤの状態でお礼言いに行く気か? あれ実は俺でしたー♪ とか言って凹ませるのが目的か?」
「あぁっ!! そうだった……気をつけないとだよね……」
「ちゃんと自覚しなきゃダメだよ? あこなんだからね。バレて困るのはあんただよ?」
「ご、ごめんなさい……」
上目遣いに潤んだ瞳で見つめてくんなよ可愛すぎるだろうが……。
「分かればいいの。じゃあこのまま商店街プラプラしていこう」
「えっ、まだ帰らないの?」
そんな怯えた目をしてもダメ。まだ返してあげないんだから。
もっと精神的に追い詰めてやらないと私の気が済まない。
私はあこと一緒にレジまで行き、さっきタダコーから巻き上げた……じゃなかった。タダコーからのプレゼント代で靴を購入。
「さ、次はどこに行こうかな。女の子同士らしくスイーツでも食べに行こうか♪」
「う、うん……でもお金とか……」
「大丈夫。安心していいよ。私が奢ってあげるから」
タダコーからまきあ……プレゼント代の残りでね!
「ほんとに? いいの? なんだかこの格好してると絵菜ちゃんが優しい……やっぱり女の子が好きなのかな……ぐふっ」
「おい、変な笑い方が出てるぞ? それに私はいつだって優しいだろうが。変な妄想する暇があったらしっかり女の子になり切りなさい。ほれ、手出して」
「やっぱり……絵菜ちゃんは頼りになるなぁ」
お前自分が女装させられて無理矢理外を歩き回らされてるって状況をちゃんと分ってるのか?
なんでそんなに懐っこくなるんだよ……。
あれか? 極限状態で頼る相手が他にいないとそいつの事を必要以上に信用しちゃうみたいなアレか?
いっそ私の事を好きになってくれても構わないんだぞ?
そしたら……めっちゃ嬉しいけど、ぐっと我慢してボロくそに振ってやるんだからな。
商店街を歩きながら何人かクラスメイトの女子とすれ違いつつ手を振りかえす。
「結構遅めの時間なのに意外と学生歩いてるんだなぁ」
「……絵菜ちゃんってやっぱり女子から人気だよね」
あぁ、結構頼りにされてる方だとは思うけどね。主に腕っぷしの方で。
「同級生とか先輩とかにはさ、割と友達多いからね」
「絵菜ちゃんいろんな部活とかの助っ人とか行ってるもんね。私結構見に行ってるんだよ♪」
こいつ……いい具合に女になって来たなぁ……というかそんな事よりも私が助っ人に行った部活の試合を見に来てるっていうのが嬉しい。
「でも絵菜ちゃんって同級生と先輩だけじゃなくて後輩からも人気あるよね?」
うーん。それはちょっと、何か違うんだよなぁ。
「後輩はさ、なんていうか……」
「おねーさまっ♪ こんな所でおねーさまに会えるなんてまるで運命ですわっ☆」
「ほら、後輩にはこういうのが多いんだよ……」
急に斜め後ろから私に背負われるような位置に飛びついて来たのは一年の子兎(こうさぎ)翔子(しょうこ)。仲のいい友達からは詐欺師と呼ばれているらしい。
ちなみに私はうさこと呼んでいる。呼んでいる、というよりこいつにそう呼んでほしいと頼まれたんだったかな。
こうさぎしょうこの真ん中あたりを取ってさぎし。
まぁこいつが詐欺師なのは私も大きく同意したいところだけれども。
「あらあらおねーさま今日はこんな時間にどうされたんですの?」
「うさここそこんな時間に何してんだよ。女の子の一人歩きは危ないぞ?」
どうにもこうにも私は後輩にモテる。
女にモテても嬉しくなんて無いんだけれど、このうさこはそういう連中の代表みたいな分かりやすい女だ。
私の背中に飛びついたまま首筋に頬ずりしてきたのでさすがにイラっとして空いている方の手でうさこのお尻をぺしんと叩く。
「いやん♪」
「変な声出すんじゃないよまったく……」
「それはそうとおねーさま、その新しい女は何者ですの?」
新しい女とか言うなよ。私が女の子をとっかえひっかえしてるみたいじゃないか……。
「ああ、この子はあこって言うんだ。今ちょっと訳アリで面倒見ててさ、商店街の案内ってところかな」
「あこさんって言うんですのね? なるほどなるほど……まぁ手を繋いじゃって羨ましい。……でもなんというか……可愛らしい子ですわね。初めまして♪ 私の名前は……」
「知ってます! 絵菜ちゃんの事大好きな子兎さんですよね! 奈那ちゃんとは違って露骨にグイグイ行く所がまた良いんだよなぁ。いつもこっそり見てまし……いだっ!! 絵菜ちゃんなんでぶつの!?」
こいつ……あまりに可愛らしく女子してたからすっかり忘れてたけど
そうだ、こいつはこういう奴だった。
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