第8話:さあ、お前の【誠意】を数えろ。


 私達はタダコーの先導で靴屋に到着。奴はずっとルキヤとは気付かずにソワソワしてるしルキヤはルキヤでその視線に耐え切れずずっとワンピースの両脇、太ももの部分をぎゅっと掴んで私に無言で助けてと訴えかけてくる。


 すまんなルキヤ、私は今のお前を見てめちゃっくちゃ楽しんでいる。こんな愉快な展開になる事は想定してなかったけれど、ぶっちゃけたまんねぇなおい。


 その大きな瞳を潤ませて私に助けを求めてくる様子を見ているだけで背筋がぞくぞくしてくる。


「あこ、ほらいつまでも私の後ろに居ないで自分でどの靴がいいか選びなよ」


「う……うん」


「そう言えば足のサイズいくつ?」


「に……二十三」


 ちっさ! 私と同じくらいじゃんか。こいつ身体小柄だけどまさか足までそんな女の子サイズだったとは……。


 でもよかった。ここでいきなり二十八とか言われたらタダコーもドン引きだろう。


 気持ちよく奢らせてやらないとね。使える物は便利に使ってあげなきゃ失礼ってもんだ。


「あ、あこちゃん! この辺りにある靴がその、似合うんじゃないかな?」


 タダコーがやたらと興奮した気持ち悪い笑顔であこに靴を勧める。


「……えっと……あ……これ可愛い」


 あこが黒ベースでピンクがアクセントになっている靴を手に取りパァっとにこやかになった。

 結構攻めた色合いの靴だったけど、下品にならないような絶妙なデザインの靴だ。

 これならきっと似合うだろう。

 服が多少シックでも可愛い系でも合わせやすそうだし、あこにはちょうどいい。


「ねぇ、履いてみていいかな?」


「それは買ってくれるタダコーに聞いてみな」


 急に話を振られたタダコーが慌てふためきながら「ど、どうぞどうぞ!」と手を振り回す。



 あこがちょこちょこ歩いて店員さんに声をかけ、椅子を促されその靴の自分サイズを出してもらう。


 そのあたりからタダコーの様子がおかしくなった。

 今まで以上にそわそわし始めて、スマホを片手にあこをチラチラ見ている。


 あー、これはこっそりあこの写真でも撮りたいのかもしれない。


 私はそんな事を考えて、まぁそれくらいならいいいか。と油断していた。


 あこが椅子に座って靴を試し履きしている時前かがみになって胸元がぱっかり開いてるのを見るまでは。


 うおっ、これは……勿論あこはブラなんてつけてないからかなりきわどい見え方をしていた。


 まさか……。


「なぁあこ、私もちょっと見たい物あるから回ってきていいかな?」


「えっ、う、うん……わかった」


 一人きりにされるのがちょっと怖かったのか表情が硬かったけど、私に気を使ってOK出してくれたので私は動きやすくなった。


「タダコー、ちょっと来な」


 奴の肩をちょんちょんとつついて、あこには見えないように店の外へ連れ出す。


「な、なんだよ絵菜。彼女一人にしたら可哀想だろ……?」


 だと思うならなんでついてきた? やましい事があるんじゃないのか?


「お前さ、ちょっとスマホ出せ」


「な、なななななんで!?」


 あーこりゃ黒だ。


「タダコーさ、あこの胸元撮ってただろ? ほら、本人には言わないでやるからスマホ出せ。嫌なら今すぐバラしに戻るぞ」


「な、なにを根拠に……!」


 その返答はダメだろ。相手は私だぞ……?


「根拠? それは今お前からスマホを奪って調べる。データ見てなにもやましい事が無かったら許してやるよ。その代わり、もしあったら分ってるだろうな?」


「……っ!! わ、分かった! 分ったよ! つい出来心だったんだ許してくれ!!」


 タダコーは泣きそうな顔になり、私にスマホを差し出してきた。


 私はそれを奪い取り、チェックすると……見事に動画が撮影されていてあこの胸元がめっちゃ映ってる。


 えっろ!!


 でも幸い完全に見えちゃってる訳じゃなかった。

 これが実は男の胸だとしても、こいつにとってはめちゃくちゃ可愛い女の子のおっぱいな訳で、それは私の友人のおっぱいな訳で、私の好きな人のおっぱいな訳で。


 つまりぶっころ。


 即座に私はそのデータを消去し、SDカードを引っこ抜いてへし折り、スマホを足元に転がして思い切り踏みつけてバッキバキに破壊。


「うわぁぁぁっ!! 何てことすんだよ!! そこまでするか普通!!」


「うるせぇ! 今どき消去したデータの復旧くらいアプリで簡単に出来るんだよ! 物理的な破壊以外に安心できる方法などない!」


 私はスマホを踏みつける足を止めない。


「あぁ……俺のスマホ……べ、弁償しろ!」


「はぁ? 弁償? どの口が言うんだ? ちなみにお前のスマホからあの動画が流れている所を私のスマホで撮影してあるからな? ほら、もう一度言ってみろ。何をどうしろって?」


 私の発言を聞いてタダコーは真っ青になる。


「ゆ、許して……。 ごめん! ほんとに出来心だったんだ! だからあこちゃんには……!」


「あこどころか本来なら警察に突き出すとこだよな? 私はこのスマホの破壊と、あこの靴代で許してやるって言ってんだけど納得しないならちょっと路地裏まで行こうか」


「ま、待て! そんなとこでお前と二人きりになったら殺される!!」


 どういう事だコラ。


「ふぅん。私そんな乱暴に見えるんだ? で、あの靴確か六千円くらいだったけど、タダコーの誠意はどのくらいかな?」


「……こ、これで……」


 タダコーはスッと万札を差し出した。ありがたく頂いておこう。


「じゃ、お疲れさま。もう帰っていいぞ」


「え、ここで? あこちゃんは……?」


「……なんか言った? よく聞こえなかったんだけど」


「……うぅ……あ、あこちゃんによろしく伝えてくれ……」


 タダコーはしょんぼりと帰って行った。


 結果的に靴代も手に入ったし飯代も出るぞ♪



 こいつはいいカモを見つけたぜ……!


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