第5話:【可愛い】アイツはにっくきアイツ。


「……これが、ボク?」


 ド定番のセリフありがとうね。


 私はルキヤを縛り上げて、その間にこいつの頭に黒のロングウィッグを被せて、顔にメイクを施した。


 私だってメイクの勉強くらいしてるんだ。

 ガラじゃないから自分には軽くしかしないけれど、こいつが実験台ならいくらでもやれる。


 結果的に言えば、成功したと思う。

 いや、ちょっとやりすぎたと言うか……思っていた以上の仕上がり。

 どう見ても美少女がそこに居た。


 可愛い。


 可愛すぎて腹が立つ。


「……えっ、ちょっと待ってよ。ボクにこんな事していったいどうするつもり?」


「言ったでしょ? 私と奈那がイチャイチャしてるのを特等席で見せてあげるわ」


「……冗談、だよね?」


「私が冗談言ってるように見える?」


 私は、こっそり部屋で来て楽しむように買っておいた服をクローゼットの中から取り出す。



「ほら、これに着替えて」


「待って、ダメだよ。さすがにこれはまずいって……」


「うるさい。自分で着替えるのと私にひん剥かれるのどっちがいい?」


 ルキヤはしばらく迷った後、静かに私から服を受けとった。


「……あの、き……」


「き?」


「着替えるから……その」


「私に自分の部屋から出て行けって言うの?」



「せめて後ろ向いてて……着替えるから」


 はぁ……なんなのこいつ。

 マジで可愛いんだけど……。


「分かったから早くしてね」


 そう告げて後ろを向くと、がさごそ……ばさりと脱いだ服が床に落ちる音がする。


 かちゃかちゃいう音が何かなと疑問に思ったけど、そうか、ベルトを外す音か……。


 よく考えたら私の部屋で男がベルト緩めてズボン脱いでるってすさまじい絵面だな……。


 相手がこいつじゃなかったら私の貞操が危ない所なんだろうけど……。


「まだ?」


「まっ、まだだよ! こっち向いちゃダメだからね!」


 相手が着替えてて、もう一人が後ろ向いてさ、絶対見ちゃダメだからね! って普通男女逆じゃないか?


「……こ、これでいいのかな?」


「もう終わった? そっち向くぞ」


「あ、やっぱりちょっと待っ……」


「うるせぇ……うぁ」


 私は言葉を失った。

 目の前にはピンク地に白のレースが沢山ついたフリフリのワンピース。

 私がたまに自己満足の為に部屋でのみ着ているとっておきの服。


 その、私サイズの服をこいつはさらりと着てみせて、しかもとんでもなく可愛い。

 お世辞抜きにして美少女にしか見えない。


「な、なんか言ってよ……」


 スカートの裾を抑えてもじもじしているルキヤの姿を見ているとなんというかこう、嗜虐心を刺激されるというか……。


「……虐めてぇ……」


「なっ、なんでそんな事言うの!? これ着せたの絵菜ちゃんなのに……」


 やめろ涙目でこっち見るな。

 私の中で本当に変な趣味が目覚めてしまいそうだ。


「……ほら、これなら完璧だろう? 私の目に狂いはなかったな」


「……うん」


 ルキヤは鏡を見て、恥ずかしそうにいろんなポーズを取っていた。


 意外とノリノリじゃねぇか。


「……確認したい事があるんだけど」


「なんだ?」


「もしかして、その特等席っていうのは……」


 ふふっ。それを聞くかね。

 そんなものたった一つしかないじゃないか。


「勿論……私と奈那の隣だよ」


「だ、ダメだよ! 百合の間に男が入るなんて事があっちゃいけないんだ!」


「バカかお前は。今のお前をもう一度見てみろよ」


「う……で、でもボクは男だし……」


「ふぅん。それでまだ男のつもりなんだ?」


 ルキヤはかなり狼狽している。

 うっすら涙目で私の顔と鏡を交互に見て、しきりに悩んでいた。


「近くで見たいんじゃなかったのか?」


「見たい……けど……」


「だったらそれが一番手っ取り早いし誰よりも一番近くで見れるじゃないか。覚悟を決めろよ」


「ボク……ちゃんと……女の子に、なれてる?」



 うおぉぉぉ……可愛すぎる。

 上目遣いで私を見るな畜生腹パンしてぇ……。


 やめて! 乱暴しないで! って泣き叫ぶこいつに無理矢理嫌がらせしたい。


 恥ずかしいポーズさせて写真ガンガン撮ってそれをネタに強請(ゆす)ってやりたい。


 そう思わせる何かがこいつにはあるんだよ。


 今の私はいじめっ子達の思考を理解しつつあった。


 そう、そもそもこいつをこんな姿にしたのは私の復讐の為だ。


 出来る限り精神的にダメージを与えて私と同じ惨めさと苦しみを味合わせてやるからな。


 その為にも、こいつには一緒に行動してもらう。私と奈那のすぐ傍にいてもらって、必ず私か奈那のどちらかに惚れさせる。


 そりゃもう気が狂いそうなくらいベタ惚れにさせてやる。


 可能なら私に。その方がやりやすいから。

 夢中にさせたら勿論出来る限り蔑んだゴミを見るような目でフッてやるんだ。


 乙女の心を弄んだ罪は重いんだぞ思い知れ!


 万が一奈那に惚れるようなら秘密を目の前で全部暴露して台無しにしてやる。

 ずっと騙してた事実にきっと悲惨な事になるだろう。


 ふふ……今から楽しみだよ。



「……さて、準備も整った事だし……」


「な、何? まだ何かするの?」


「その姿でちょっくら買い物にでも行こうか」


 そう、それだ。

 その絶望に染まる顔が見たかったんだよ。


 こりゃたまんねぇわ。

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