第6話:初めての【女の子】


「さすがに……冗談、だよね?」


「冗談な訳あるかボケ。私と奈那の近くに居なきゃならないんだから今のうちに慣らさなきゃだろうが」


「べ、別に今日じゃなくても……」


「アホか。ここまで準備が整ってるんだから行かなきゃ損だろ。ほれ行くぞ」


 ルキヤは面白いくらい慌てて、スカートの裾を抑えながら嫌だ嫌だと騒ぐ。


 そういう仕草が私の嗜虐心を刺激しまくるわけですよ。


「おらいくぞ」


 ルキヤの腕を掴んで無理矢理部屋から引きずり出す。

 玄関まで来たところでまたゴネだし、なかなか第一歩を踏み出せずにいると……。


 あーあ。私は知らんぞ。お前がモタモタしてるのが悪い。


「あら? 絵菜ちゃんお出かけ? ……その子は? お友達かしら?」


「ヒィィィッ!!」


 情けない悲鳴をあげてルキヤは私の後ろに隠れてしまう。


 笑いがこみ上げてきて堪えるのが大変。


「えっ、絵菜ちゃん! 助けて……」


 小声で私の耳元に囁き声が飛び込んできて一瞬目の前がくらっとした。いかんいかん。


「そんな調子でどうするんだよ。これから外に行くんだぞ? もっとどうどうとしてろ……っておい変な所触るなっ!」


 ビクついたルキヤが私の腰に後ろからぎゅっと抱き着いてきたのだ。危うく前に回された手が私の大変なところに触れそうになって慌てて叩き落とした。


 どさくさに紛れてとんでもない事しようとしやがったなこいつ……。

 私の心臓が急激にバクつき出した。

 背後から抱き着かれているので聞かれていないかと不安になる……。


「その子……会った事あるかしら?」


「えっ、えっと……初めて……です」


 元々可愛い声してるからなぁ……女の振りしたらかなり様になってる。全く違和感ねぇや。



「そう? 絵菜ちゃんと仲良くしてあげてね♪ ところでお名前は……?」


「あぁ、この子はルキ……じゃなくて、えっと……」


 そうだった名前そのままじゃさすがにまずい。


「あこ……あこです」


 私の背後からひょっこり顔だけだして、ルキヤがあこと名乗った。


 なんであこ? 阿呼辺のあこ? それも流石に短絡的じゃないか……?


「あこちゃんね? 覚えておくわ♪ ……やっぱりどこかで会った事が……うーん。あ、もしかしてルキヤ君の親戚の子だったりしない?」


 うぉぉ、めっちゃするどいぞ母。

 だが残念。そのルキヤ本人である。


「そ、そう……です」


「なるほどねぇ~。だからどことなく雰囲気が似てるのかもしれないわね」


 少なくともこれで母親はクリア。

 意外とやればできるじゃないか。


 じゃあ次はセカンドステージといきましょ。


「ちょっとこの子と出かけてくるから。夜遅くならないようにするよ」


「そうね、絵菜ちゃんなら何かあっても大丈夫だと思うけれど、あこちゃんも一緒なんだからあまり遅くなり過ぎないようにね。行ってらっしゃい」


 母に手を振って家を出る。

 ルキヤもさすがにその状態でゴネる訳にもいかず一緒に外へ出る。


「ねぇ絵菜ちゃん……さすがにコレはないんじゃないかな……」


 てっきりその言葉は、この展開自体に文句を言ってるのかと思ったけれど、それは私の勘違いだった。


 ルキヤが気にしていたのは足元。

 フリフリの可愛らしい服なのに靴がスニーカー。


 確かにこれはおかしい。


「というかお前まっさきにそれに気付いてどうにかしたくなるとかノリノリじゃないか」



「ち、違うよ! ボクだってバレないように必死なんだよ……」


 それも分かる気がするけどね。でも確かにこの靴じゃ違和感凄いから早めになんとかしよう。


「じゃあ今日はお試しがてら靴を買いに行こうか。商店街の入り口の所に靴屋あるでしょ? あそこ結構安くて可愛い靴売ってるからいいの見つかるよ」


「……う、うん。大丈夫かなぁ……」


 未だにルキヤはスカートがスースーして慣れないらしく、しきりに裾を抑えてはもじもじしている。


 恥らいがあるみたいに見えてとても良い。

 事情を知っている私から見ると二度おいしい。



 咄嗟に思いついた仕返しだったけれどこれは大当たりだぞ。

 これから毎日楽しくなりそうだ……とっても素敵な玩具を手に入れてしまった……。


 こんな悪魔的な仕打ちを考えた私と、それをさらりとこなせる素質を持ち合わせているこいつが恐ろしいよ。


「さって、じゃあ靴屋まで行こう」


「待ってよ……置いてかないで」


 私がスタスタ歩き出すと、後ろから慌ててルキヤがパタパタと付いて来て私の服の裾を摘まんだ。


 ぐぬぬぬ……!!

 この萌え要素の塊めっ!!


 無意識に表情が弛緩しそうになるのをぐっとこらえた。


「……手、繋いでも……いいかな?」


 そう言ったのは私ではない。ルキヤの方だ。


「な、なな……なんで?」


「だって……今は女の子同士……なんだよね? ボクその方が安心だし……ダメ、かな?」


 うおぉぉぉぉぉぉっ!!

 私は今にも叫びたいくらい感情のゲージが振り切れてしまった。


「……よ、よかろう」


 混乱して変な返事をした。


「ほんと……? 良かった。絵菜ちゃんはやっぱり頼りになるね」


 一瞬、昔私がいじめっ子から守ってあげた頃の事を思い出した。


 ルキヤは、自分が男なのに女に守られて情けない奴、と影口を言われだんだんと私から距離を取るようになった。


 女同士だったら、あの頃からずうっとこうしていられたのかな?

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