デートの前にお泊まり会を(紗英視点)

「あらあらー! あなたが噂の妹ちゃんね。まあなんてかわいい」


「あ、あの、えっと」


 きょうは金曜の夜、小百合ちゃんが坪井家にお泊まりする日。

 遠慮がちにチャイムを鳴らし訪問する小百合ちゃんを、母さんは一目見るなりいきなり抱きしめた。


「きょうは何の遠慮もなくゆっくりしていってね! 自己紹介が遅れました、私が紗英の母親、紗弓です。よろしくね」


「あ、あの、石井小百合と申します。こちらこそよろしくお願いいたします」


 ハグをし終え離れてから、あらためてあいさつを交わす母さんと小百合ちゃん。順序がおかしいとは思うけど、これから長い付き合いになるわけだしね。このくらいフレンドリーでもいいのかもしれないな。

 小百合ちゃんは戸惑ってるけどそのうち慣れるだろう。


 まあ、なにはなくとも本題だ。


「母さん、悪いんだけど、さっそく……」


「わかってるわよ紗英。じゃあ小百合ちゃん、こっちに来てもらえるかしら?」



 ………………


 …………


 ……



「あ、あの」


「どうしたの小百合ちゃん?」


 母さんに連れられ。

 いろいろ着せ替えショーを楽しんだあと……いや、楽しんだのか母さんだけなのかもしれないけど。

 小百合ちゃんはボクの部屋に来て、申し訳なさそうな顔を見せる。


「ほ、ほんとうに、いいんでしょうか……こんなにたくさん……」


 ちなみに小百合ちゃんにあげた服を部屋に持ち込んだら、ボクの部屋のスペースが半分ほど埋められてしまった。

 ま、母さんがそれだけ小百合ちゃんを気に入ったってことだし、だいいち小百合ちゃんにあげた服はこういっちゃなんだけどもう使うことがない服だし、全く問題ない。


「いいに決まってるでしょ。ここにあったって、誰も着ないし。だいいちボクにはサイズが合わないから」


 いいかげんに申し訳なさげな顔はやめて、はにかむようなあの笑顔を見せてほしいんだけどな。

 ほんと、小百合ちゃんのあの笑顔は凶器。たぶん睦月もアレにノックアウトされてる。


 ちょいと小さめの頭をなでこなでこ。

 小百合ちゃんは髪が短めでくせっ毛なので、ちょっとだけ乱れたりもしたが。そんなことは気にする感じはない。遠慮なくなでようか、なにしろ今日は睦月に邪魔されないから。


「え、えへへ……」


 おお、待ってました、これこれ。


「こんなのでよければ、いくらでもあげるからね」


 だからまたこの笑顔を見せてほしいなあ、とはあえて言わなかった。


「わ、わたし、本当にうれしいです!」


「そんなに気に入った、あの服?」


「ち、ちがいます! こんなに優しいお姉ちゃんができたことが、です!」


「ふぁ?」


 思わぬ不意打ち。面食らったような声をあげちゃった。


「お兄ちゃんだけじゃなく、お姉ちゃんもこんなわたしに優しくしてくれて。なんて言ったらいいかわからないですけど、本当にわたしは幸せ者だなって!」


「……」


 あまりの健気さに涙が出そうになる。

 小百合ちゃんが今まで恵まれてなくて、苦しいつらい生活をしていたことは睦月から聞いてるし。

 そのせいでいろいろ歪んでもおかしくないんだけど、いつも素直でいてくれて。


 思わず、小百合ちゃんの頭をなでる手が止まると。


 ちゅっ。


「!?」


 小百合ちゃんが、ボクの頬にキスをしてきて、一瞬白くなった。


「さ、小百合ちゃん!?」


「えへ、きょうの、感謝の、きもちです……」


 すぐにパッと離れて、またもやほほえむ小百合ちゃん。


 こーのぉー!

 姉をドキッとさせるなんて、けしからん妹だ!


 わしゃわしゃわしゃ。

 さっきより二、三倍ほどの高速で小百合ちゃんの頭をグリグリ。


「わ、わっ、おねえちゃん、はげしいです!」


「小悪魔な妹は、ちゃんと躾けないとね!」


「え、え、え? どういう意味ですか?」


「妹にほっぺちゅーされて、姉はとっても嬉しいってこと!」


 半分照れ隠しも入っているボクの言葉を聞き入れ、小百合ちゃんはしばらくの間、なされるがままだった。

 この妹は危ない、将来小悪魔どころか悪女になる可能性ありだ。


 …………


「ねえ、小百合ちゃん?」


「はい?」


「睦月にもよく、ほっぺにチューしてるの?」


 ふと気になって、ボクは小百合ちゃんにそう尋ねてみる。


「い、いえ、お兄ちゃんには一度もしたことありませんよ?」


「……そうなの?」


 予想外の妹の回答に、少しだけ気分がよくなったボクだったが。


「は、はい。嫌われそうだし……そ、それに、お兄ちゃんにこんな事したら、わたしがもちません……あうぅ」


 小百合ちゃんは、気軽にほっぺチューできないくらい、睦月を意識してるってことなのね。ちょっとだけショック。


 ……でも、まあいいか。


「小百合ちゃん!」


「な、なんでしょう?」


「いい? 睦月には今後、いたずらにこういうことはしちゃだめだからね?」


「えっ……」


「そのかわり、ボクにするのはいつでもオッケーだから」


「は、はい!」


 睦月、このくらいは許してね。

 姉として、妹とのヒミツくらいボクも共有したいからさ。


 そのうち、ボクも小百合ちゃんとデートしてみたいなぁ……

 そんなことを思ったお泊まり会でした。



 ちなみにその後、一緒にお風呂と添い寝を求められたけど、ちゃんと断ったことは姉としてはっきり記しておきたい。



 ────────────────────────



 次回、ようやくデートです。お待たせしました。

 最近体調が思わしくなく、更新遅れて申し訳ございません。

 今後は可能な限り更新頑張ります。

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