ダブルデート?
「悪かったな、紗英」
「ううん、まあだいたい察したけど……小百合ちゃんは、大丈夫?」
「おお、何の問題もない」
そのあと喫茶店に戻った。少しだけ客も引けていて、サーシャと胡桃沢が不機嫌そうに俺を見ている。
「……どうした胡桃沢。不機嫌そうな顔をして」
「べっつにー……ふんだ」
「?」
訳が分からないよ。
「サービスでなにか不手際あったか? 研修中の従業員もいるし、それならすまな……」
接客業の気遣いを見せたのに、そこで間髪入れずにサーシャにわき腹をつつかれた。地味に痛い。
「うぉ! いきなりなにすんだサーシャ!」
「……まったく。ムツキは女心ってもんがわからないんだね。マサゴがかわいそう」
サーシャが紗英化しておる。俺なんかしたか? と言わんばかりの顔をすると、さらに追加攻撃を食らった。
「デートの約束してるんだから、少しはマサゴのことを大事に扱いなさいな」
「……は?」
なに、それで胡桃沢が不機嫌そうな顔してるわけ?
ごめん、ようわからん。俺はムリヤリデートに付き合わされるほうで、被害者はむしろ俺なんだが。
納得いかないような俺の様子に気づき、そこで紗英も参戦。俺の耳元に近づいてひそひそ話をしてくる。
(あのねー、睦月。真砂ちゃんだって勇気がいったと思うよ、お誘いするの)
(……そうなのか? そういうもんなのか?)
(あたりまえでしょ。女子のほうから誘うのって、気軽にはできないよ。その勇気には敬意を表して、ちゃんと)
(お、おう……)
ゲシッ。
そこで今度はわき腹に肘鉄が飛んできた。
「い゛て゛っ! なにすんだサーシャ! 訴訟!」
「どこに訴えるのよ。というかそんなことしたら強制送還になっちゃうからやめてくれない?」
「目には目を、だ。俺が肘を思いっきり食らうようなこと、サーシャにしたか?」
「ううん、なんとなく。なんかさー、ムツキとサエがひそひそ話してるところみると、恋人同士の内緒話って空気があたりに広がって結構ヒワイだわ」
「人をワイセツ物扱いするなよ……」
「……ぶっすー」
おっと。
胡桃沢が完全に蚊帳の外継続中。機嫌がさらに悪化しておる。いつも脳天気な胡桃沢がここまであからさまに不機嫌そうな様子を見せるって珍しいな。
…………
まあ確かに。紗英に指摘を受け気づいたが。
冗談ぽく言われたにしても、少なくとも嫌いなやつをデートに誘ってきたりはしないよな。うん。
胡桃沢なりの勇気に対し、俺の配慮も足りなかったことは事実である。
「……悪い、胡桃沢。俺もさ、女子とデートした経験ってないから、そういう気遣いってのがよくわからなくて不快にさせたかもしれない。すまなかった」
「……へっ?」
ここは事実を絡めつつ、素直に謝罪するのが最善手。
突然の俺のカミングアウトに、胡桃沢が間抜け面を晒した。
「なにそれ……マジで? 宮沢っちが、デートの経験ないって?」
「あ、ああ……そうだけど……」
「ムツキ。嘘はよくない」
「こんなことで誰が嘘言うか。ほんと、そういうとこだぞサーシャ。俺がそんなにモテると思ってるのか?」
そこで俺を除く三名が、お互いに顔を見合わせた。
「……坪井っち、本当?」
「う、うん。確かに今まで睦月がデートとかを大っぴらにしたような記憶は皆無だね……」
「……ナルホド。女性に対しての気配りが全くできないのも納得だわ」
「マジかー……宮沢っちがまさかそこまでド天然だったとは……ということはひょっとしてどうて……」
ひどい言われようだな。おい。おまけにサーシャは珍獣を見るような視線まで送ってきやがって。
だが。
「ま、まあ、そういうことならしかたないねー。じゃ、じゃあ、とにかく、宮沢っちの初デートなんだから、記憶に残る楽しいものにしなくちゃね! まったくもう、こんなことなら一年待つんじゃなかったよ……でもはじめて、だってさ……ウケルんですけどー、うふふふふふふ……」
なぜか胡桃沢がいきなり仏頂面を崩して笑顔になったので、俺はさらに訳が分からなくなった。
軽くディスられたようで、納得いかない。悔しいので巻き添えを作ることにする。
「紗英だって人のこと言えないだろう。彼女いないのに」
モテるし得意技タラシの紗英ですら彼女ができたことはないから、堂々とツッコミできるわ。いやまあ俺に黙ってひっそりとデートくらいはしてるかもしれないけどな。
「なんでボクに飛び火するの?」
「ああ、まあ……サエの場合、誰かを誘っても『ムツキと仲良くね』とか言われて断られそう」
「そだねー。それに坪井っち、そこいらの女子より美人だし。嫌じゃん、彼氏が自分より美人だったら」
「ボクまでひどい言われよう……」
男二人、胡桃沢とサーシャに撃沈されるの巻。
「まあまあ落ち込まないで。サエ、サーシャでよければ、デートに付き合うよ?」
「……へっ? サーシャが? ボクと?」
「あ、それいいんじゃない? アタシと宮沢っち、サーシャと坪井っちでダブルデートとか!」
「ファッ!?」
紗英が、ふたりの提案を受け、らしからぬ声をあげた。
なるほど、いや確かにサーシャも紗英くらい目を引く美人なんだよな。黙っていれば。
あくまで黙っていればだぞ。大事なことなので二回言う。
…………
なんだこの流れ。
まあ、いいかな。胡桃沢と二人っきりよりは気が楽だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます