第30話 幻世はソコにある。
東京都豊島区雛野街、その地下にはひと昔前に地下鉄として利用されていた場所がある。
そしてそれは劣化の為に廃線となり撤去するのも難しく、更に複線すらもままならず放置されていた。
そこに、“地下を好むあやかし”が棲み着いた。それが“ネズミのあやかし”。そして、今回退魔師に“依頼”して来た“如月”と言うネズミ男達の巣であった。
如月は“あやかし専門探偵事務所”の所長であり、群れの長である。が、彼は“闇喰い”、あやかし、人間を“闇の者”に変える存在に巣食われていた。
そして、群れも。
巣食われていた理由はただ1つ。
“闇”から這い出た負の存在……“闇の魂”達が入り込むからだ。闇喰いとは“悪霊”の様な者である。生きてる者に“憑依”し、身体を心を乗っ取り“闇の者”に変える。
つまり、人間で言えば“聖人”を“無差別殺人鬼”に変えるのである。だが、如月は今、地下トンネルの地面に倒れている。それは、退魔師である葉霧が彼の中に巣食う闇喰いを消したからだ。これは、退魔師にしか出来ない芸当である。
けれども……、彼の闇喰いが消えたからといって終わりではない。そう、ネズミ達は巣食われている。獰猛なあやかしとなり、餌である人間達、そして自身より弱者を喰らう為に向かって来るのだ。
手始めに、おかっぱ頭の“幼女の姿”をしたあやかし“お菊”、そしてモグラの姿をしたフンバ。更に……可弱気人間の少女“水月”に、彼等は照準を定めた。
一斉に飛び掛かる。
「水月っ! フンバ! お菊っ!!」
楓は夜叉丸を携え彼女達の方に走る。大型犬ほどあるネズミのあやかし達の真っ黒な群れが、餌に飛び掛かるのを阻止する為に。けれども、“
「“水竜”っ!!」
水月が叫ぶと彼女の身体は眩い水色の光を放つ。背後から大きな水竜……、龍の化身は現れる。
水色の光に包まれて背後にゆらっと現れる水竜は、キツネに似た顔立ちをしている。だが、身体は蛇に似ている。胴体は長く背ビレは棘が生えた尾の長い龍だ。
翼は無くキツネに似たその口元を開く。
飛び掛かってくるネズミのあやかし目掛けて、彼の口元から水色の波動は放たれる。
“水のヌシ”、水天竜の弟である水竜が操るは“水”。それは、大きな水鉄砲の波動である。
ネズミのあやかし達は、放水に似た力を受けて跳ね返り地面に落ちてゆく。
そこに“雨宮灯馬”は紅炎に包まれた右手を向けた。地下トンネルのコンクリートの地面に、倒れ臥したネズミのあやかし達に向けて。
「“紅炎の墓標”っ!!」
地面から沸き上がる火柱がネズミ達の身体を、一体ずつ燃やす。それはまるで紅炎の墓石の様に、彼等の身体は炎の柱で包まれ焼かれる。
楓はそれを見て突っ込んだ。夜叉丸を握り、火柱で炙られ焼かれるネズミのあやかしに突進した。
「纏めて冥府に送ってやるっ!! 死にやがれっ!!」
夜叉丸に蒼い鬼火が宿る。
蒼い炎の刀と化した夜叉丸で、楓は火柱に包まれ焼かれるネズミのあやかし達を、薙ぎ払った。
胴体を切断する程の蒼炎刃は、彼等を焼払ったのだ。
それは、爆破する。
ドォォォンっ。
轟音たててあやかしのネズミ達の身体は爆破し、砕け散った。
そして、更に背後から襲いかかるネズミのあやかし達に、楓は直ぐに振り返った。
飛び掛かって来る彼等を睨み夜叉丸を構え、蒼い炎に纏われた刀を薙ぎ払う。
「“蒼炎刃”っ!!」
蒼い炎の太刀は炎舞の如くあやかしのネズミ達を纏う。
うぎゃあっ。
纏う炎は灼熱地獄。
彼等の身体は瞬時に悲鳴と共に焼き焦げる。
「すげ。」
灯馬は自身と同じ“炎”の力を使いつつも、桁が違うのを見て眼を見開く。
彼女の鬼火はまるで“地獄の業火”。
触れるだけで焼き尽くされる。それを知り、彼はチカラの差を認識した。
葉霧は、それを見てるヒマはなく、鎮音と共に巣に蔓延るネズミのあやかし達を見据えていた。
紅い眼を光らせ獣の如く、涎垂らし飛び掛かって来るネズミ達。ドブネズミの何十倍と大きな巨体で、俊敏だ。
葉霧と鎮音に突進してくる様は猪である。
「葉霧、奥に何かある。」
鎮音は突進して来るネズミのあやかし達を見ながら言った。葉霧は、この巣に居る彼等に力を放ち、“闇喰い”を炙り出し退治しようとしていたが、余りにも彼等の動きが俊敏でそれが出来ずにいた。その時の鎮音の言葉である。
「奥?」
葉霧は突進して来るネズミのあやかし達の後ろを見ようとしたが、それどころではない。目の前に大群が攻めて来るのだ。咄嗟に“力”を切換える。
(今は…“滅却”するしかない。)
葉霧は右手だけでなく、両手を突進して来るネズミの群れに向けた。
ポゥ。
光る。
白い光が彼の両手を包む。
それは、神々しい光になり、碧の眼が睨むネズミのあやかしの大群に向けて解き放たれる。
「“退魔滅却”っ!!」
葉霧の両手から放たれるのは白い光の波動だ。
大きな波動砲はネズミのあやかし達に放たれ、彼等を消滅させる。それは、塵にもならぬ完全な消滅。
光に当たった瞬間に消えて無くなるのだ。その姿カタチは。
同じ様に突進して来ようとしていたネズミのあやかし達は、それを見て着地した。
怯む様に後退りしたのだ。
(……自我があるのか。それとも……“本能的”な行動なのか……。)
怯んだ様に見えたが葉霧にその真意は解らない。けれども、彼は白い光を消した。
鎮音は消し飛んだネズミのあやかし達の向こう側を見据えていた。ネズミ達の向こう側はコンクリートの壁だ、けれどもそこにまた黒い大きな穴が開いて行くのを見ていたのだ。
「………まさか……“
鎮音はその穴の向こう側に視える、黒い人影に眼を凝らした。そして、彼女は両手を握り締めた。
「………何か来る……。」
葉霧は咄嗟に右手を向けた。
「……闇喰いの巣……“幻世と現世の通り道”……、気付いた者が通って来る。それも……“厳つい奴”が。」
鎮音のオレンジ色の灯火の様な眼は、通り道をゆっくりと歩いて来る黒い人影を見据えていた。けれども、それは禍々しい力を持っていると解る程であった。
ハッキリと解るのだ。“脅威の存在”だと。
葉霧にもそれは気配で解った。ゆらり。と、人影は徐々に近付き色濃く視える。
大きな巨体が穴に向かって歩いて来るのが、彼にも視えた。
「……“東雲”以上の“妖力”を感じる。」
葉霧は白い光を右手に溜めた。だが、鎮音は後ろを振り返り叫んだ。
「楓っ! “
楓はその声に、お菊の傍にいたが はっ。として、振り返った。そして、楓の胸元に掛けられている“深蒼の勾玉”が光る。蒼く。
更に葉霧の胸元でも首から提げている“真紅の勾玉”が、紅く煌めいた。
2つの勾玉の光の中から飛び出して来たのは、大きな“化猫”であった。
そして………、壁の向こう側からその者は姿を現すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます