第26話 闇喰いとは。

 平安の世に“封印”され現世げんせ……この平成の世で覚醒めた“鬼娘 かえで”。

 そしてその眠りを不本意ながらも解いたのは、封印した“退魔師の末裔”でありこの現世にて、唯一無二の退魔師である“玖硫葉霧くりゅうはぎり”であった。

 そして“東京都臨海副都心 皇海すかい街”。

 海を埋立て創られた第2の都心と呼ばれるこの都市で、“あやかしとの戦乱”など無縁なこの“現世”に、再度“動乱の世”を復活させようと絵を描いた者達。それが、“鬼娘 楓”の元婚約者であり、角を持たぬ鬼 “東雲しののめ”を筆頭にする謎多き者達であった。

 角を持たぬとは“人間と鬼との間に産まれた子”の特徴である。謂わば、“半端者はんぱもの”と言われる存在である。

 その者達との闘いは終焉したかに見えた。が、それは只の“宣戦布告”であり、既に目に見えての“異変”は起きていたのである。そして、それを楓と葉霧は知る。

 先ずは身近な存在である“玖硫鎮音くりゅうしずね”の異様とも言える“危機感”からの発言、そして“退魔師”である葉霧に救いを求める“現世のあやかし”。それも“闇喰やみくい”に蝕まれている者からの“救声”である。是迄も“闇喰い”に巣喰われ、命を脅かされた“あやかし”は居た。だがそれはこの現世に生きる“ヌシ”達であった。つまり、“土地神”である。

 現世には“土地神”と言うその地を護る“あやかし”が居る。それ等は主に、山、海、森、湖、池、川、など、ありとあらゆる自然の場所に棲む“護りヌシ”の事である。が、時代の流れと共に棲む土地を奪われた“ヌシ”も居る。けれども、あやかしは“長命”である。土地を奪われたからと言って“生命途絶える”訳ではない。理由は“彼等の生命を脅かすモノ”では無いこと。

 つまり、彼等は棲む地は失くしたが“生命”は奪われていないと言うこと。

 “開拓、開発、危険区域としての整備”など、理由は様々だが彼等は“時代の変化”に基本的に同意、賛同思考であり“表”に出ない事にしたのだ。生きては居るが“存在”を消した。

 それは“共存”すること。そしてそれが“現世を護ること”に繋がると考えていたからだ。

 だが、それを“悪心”に変える存在……、それが“誰しもにある闇の心”を覚醒させる力を持つ“闇喰い”。

 “何者にもある邪心などの負の感情”を覚醒させる者達である。それ等は“無念に死を選ぶしか無かった魂たち”。それらが集まり“力“になった。そして、それは“聖人を喰う”。そして“覚醒”させる、“暴力”、“狂暴”と言う眠れる闇の心の力を。

 現世に生きる“人間とあやかしの聖人の心”を彼等は喰い、その体内、脳内に棲む。そして……“闇”に還す。

 “破壊と暴力の世界を創造する為に支配する”。

 「それで? 俺に何の用だ?」

 退魔師……玖硫葉霧は、名刺を見ながら聴いた。

 “あやかし専門探偵事務所 代表如月きさらぎ”。

その名刺を見ながら。

 “如月”、そして他の男達は皆、よく似ている。ネズミと言う種族だからか。青白い顔をしたレッドブラウンの大きな目。下がった眉に小さい鼻、小さい口に前歯2本が少し長目。そして少し尖っている大きい両耳。小顔で逆三角形の輪郭もネズミのあやかしの特徴である。

 如月はその中でも特に顔色が悪く、ウィンターコートを着ている。さっきから震えている。

 葉霧は彼を見ると聴いた。

 「お前だけじゃないんだな?」

 すると、如月はコートのポケットに両手を突っ込み頷いた。髪は黒髪だ。そして、額にちょろん。と、何故か1本だけ前髪が伸びていて頷くと、それが揺れた。

 「はい、俺だけなら“放置”しました。けど、俺らの“巣”にあるモノがあったんですよ、それは呪符みたいなモンが貼られた“地蔵”で、特に気にしてなかったんです、地下だし地下鉄作る時にでも供えたモンかと。」

 如月は困惑した様に言った。それに食いついたのは鬼娘、楓だった。

 「“闇喰いの巣”……。」

 そう言うと、如月は楓を見た。

 「か……どうかは解らない。でも、今思えばそうだったのかも。それがいきなり破壊されてて、そこからぶわって黒い影みたいな、靄みたいなのが巣を覆った。で、俺と仲間達が“襲われた”。や? なんか……生温い風に覆われたみたいになって……そっから可怪しくなった。」

 如月はとても混乱した様な表情で言った。葉霧はそれを聞くと

 「興奮状態になった?」

 そう聴いた。すると、如月は頷いた。

 「はい、抑えられない何か。衝動的な“モン”が身体を巣食う感じ。仲間同士も言い争いが絶えなくて、この前喰い殺してたんです。共喰いはしない“種”なんですけど。」

 そう言った如月は何処となく青褪めていた。葉霧は名刺を眺めた。“あやかし専門探偵事務所”。その表記のある名刺を。

 (この先……、こういった存在は“力”になるかもしれない。螢火の皇子の世で言う……“隠し者”。今の時代に忍びは居ない。だが、探偵は近い存在。それも“現世のあやかし”だ。)

 葉霧は楓を見た。彼女はとても胡散臭そうな顔で俯く如月を見ていた。

 「楓、どう思う?」

 葉霧が聞くと楓は直ぐに言った。

 「見なきゃ解かんねぇ。つか、嘘ついてるかもしんねぇ。葉霧を狙う“あやかし”かも。」

 楓の言葉に葉霧は彼女を真っ直ぐと見て言った。

 「それなら見に行こう。」

 楓は俯く如月を睨んでいた。そして言う。

 「おい、騙しても解かっからな? “私”は。」

 「え……?」

如月が驚き顔を上げると、楓の眼は蒼く煌めいていて更に、全身に蒼い炎が纏っていた。

 如月はその鬼迫に身体を退いた。

 「退魔師葉霧を……殺そうとする奴の“匂い”は解んだよ。もし、お前がそーならココでうたっとけ。じゃねーと……ブチ殺す。」

 蒼い炎は楓の全身を纏いそれは離れている如月のモスグリーンの、コートの裾にちりっ。と、燃え移ったのだ。

 「わっ!」

 咄嗟に如月はコートの裾をバタつかせ、その炎を消した。

 「騙してなんかいませんよっ!! 勘弁して下さいっ!!」

 如月が言うと葉霧は楓に言った。

 「楓、彼等の巣に行くよ。」

楓はそれを聞くと はぁ。ため息つきつつ蒼い炎を身体から消した。

 「はいはい。貴方様は何処までもお人好し。」

 呆れた様に言ったのだ。

彼女の正体は“鬼一族の長”……修羅姫しゅらきである。今の所、力はセーブされているが、1度覚醒しているのでその力がいつまた覚醒めるのかは解らない。

 こうして、如月と共に“ネズミの巣”に御一行は向かうのであった。  

  

 

 

  


 

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