第5話〜桃太郎の決意〜

桃太郎は目が醒めると、心を決めました。


「おじいさん。僕は鬼ヶ島へ行きます。」


山へ薬草を採りに行くためか、鎌を持って出かけようとしていたおじいさんは、その言葉に驚きます。


「…も、桃太郎や。お前はまだ子供じゃ。

お前を危険な目に合わすわけにはいかん。」


「おじいさん。僕はもう子供ではありません。日頃の鍛錬のおかげで、鬼達にも遅れは取らないはずです。」


「しかし…どうして急に…」


おじいさんが心底困った様子で理由を聞くと、桃太郎はしばしの間を開けた後、ポツリと言いました。


「僕、思い出したのです。」


その言葉におじいさんはハッと息を呑みました。


「以前おじいさんが話していた、鬼達に村を襲われた日の事を。」


おじいさんの鎌を持つ手に力が入ります。


「桃太郎…。まさか、それは、お前が前に言っていた怖い夢のことか…?」


おじいさんの鎌を持つ手が震えています。


「はい。当時僕はまだ幼かったので覚えてなかったのですが…

全部、思い出しました。」


おじいさんは諦めたような表情を浮かべて、


「そうか…残念じゃ。であれば…」


それが決意を固めたような表情に変わった時、


「ええ。であればこそ、私は鬼ヶ島へ行って鬼退治に行きたいのです。」


おじいさんが紡ぎかけた言葉を桃太郎が引き継ぎました。


おじいさんの手の震えは既に止まっています。


おじいさんはただ黙って桃太郎を見つめていました。

おじいさんがどのような気持ちを抱いているかは、表情からは分かりません。

でも、桃太郎にはおじいさんの気持ちが分かっているみたいに。


「ずっと…僕を危険な目に合わせたくなかったのですよね?

僕がこのことを思い出してしまうと、僕が鬼ヶ島に行ってしまうだろうと思って…」


おじいさんはただ黙って、桃太郎の口から放たれていく言葉を待ち続けています。

決して、聞き逃さないように。


「あの日、村が襲われた日、僕は『誰か』に助けてもらいました。僕を物置小屋に隠して…僕の事を守ってくれました。

僕は隠れたまま、その人の帰りを信じて待ってました。

そしたら、その人はやっぱり僕の元に帰ってきてくれたのです…。

あの時僕を守ってくれた人っていうのは…

おじいさん。


…あなたですよね?


そう、あの時暗く狭い物置小屋から僕を出してくれた人は…

おじいさんだったんだ。


おじいさんは命がけで僕を物置小屋に隠して、そしてちゃんと帰ってきてくれた。」



するとおじいさんは暫く押し黙った後、意を決した様に答えました。



「………。



……ああ。確かにワシじゃ。

あの時、お前は幼子にも関わらず、泣かずに待っていてくれたな。」


そうだ…

僕は泣かずに待っていた。

だって、信じてたから。


「おじいさんは、自分の事を頼りないって言ってましたが…

本当にそんな事はありませんでした。」


そして桃太郎は一つ息を吸い込むと…


「おじいさん。今度は僕がおじいさんを助ける番です。

だから、僕は、鬼退治をしに鬼ヶ島へ行きます。」


こうして、桃太郎は鬼ヶ島へ行くことに決めましたとさ。

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