第3話〜桃太郎とおじいさん〜

「どうしたんじゃ桃太郎。よく眠れなかったのか?」


ある晴れた日のこと、おじいさんは部屋で薬草を作っていました。


「実は昨日少しこわい夢を見てしまって…

それよりおじいさん、今何を作っているのですか?」


「薬を作っておるのじゃ。生活は苦しいが、なんとか生計を立てんといかんからのう。」


おじいさんが薬草をすり潰すと、見る見るうちに粉の様になっていきます。


桃太郎は感心しながらおじいさんの隣に座って、作業を眺めています。


「それより桃太郎よ。さっき、怖い夢を見たと言ったな。」


おじいさんは尚も薬草をすり潰しながら聞きました。


「はい。なんだかこわい夢でした。村が大変な事になる様な…どんな夢かは思い出せないのですが…」


おじいさんは薬草をすり潰す手を止めました…

そしてーーー


「……おじい、さん?」


「……思い出さんでええ。」


おじいさんは一言そう言うと、桃太郎を優しく抱きしめました。


「怖いことは、思い出さんでええんじゃ。

怖いことは、忘れてしまったら、ええんじゃ。」


なんだか…懐かしい感触ーーー


そう思った途端、桃太郎は昨日の夢がとても温かく思えてきました。


とってもこわい夢だったはずなのにーーー


とっても哀しい夢だったはずなのにーーー


おじいさんは僕にとって大切な人でーーー

おじいさんは僕の事を大切に想っているーーー


自分を抱きしめるおじいさんが、今どんな顔(表情)をしているのかは分からないが、

おじいさんから匂う土臭い薬草の臭いが、

とてもいい匂いだと、桃太郎は思いましたとさ。

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