第2話〜少年の記憶〜

ーーー…ッ郎!…ッ太郎!!


僕を呼ぶ声がするーーー

家の外が騒がしいーーー


僕は静かに目を開ける。


「お前はここに隠れていなさい!

良いか?静かにしてるんだぞ。外にはこわーい鬼達がたくさんいる。

食べられたくなかったらここで大人しくしてるんだ。良いな?」


この人は誰だろう。


僕を小さな物置小屋に押し込んだ「この人」は、僕の肩を強く掴みながら何かを言ってくる。


「言葉」というものはまだよく解らないが、僕を危険から守ろうとしているのは解る。


僕は暗い物置小屋の中から「この人」を見ているが、外は緋く耀く火の灯りがとても明るく、この人の顔が見えない。分からない。


もちろん、今どんなかお(表情)をしているのかも…


ただ、解るのは…

「この人」は僕にとって大切な人で、

「この人」は僕の事を大切に想っている。


物置小屋の外はとても騒がしく、何かが焼ける音がパチパチと聞こえ、夜にも関わらず昼のように明るい。


悲鳴、怒号、泣き声、呻き声。


外から聞こえるおぞましいそれらは、まるでこの世の終わりの様な感じがして、大量の蟲が足から這いずってくる様に、不安と恐怖が入り混じったものが皮膚の上に蠢いた。


今何が起きているのかはさっぱりわからない。

でも何かこわいことが起きているということはなんとなくわかる。

だから…


だからやめて…

こんな真っ暗な小屋の中、独りにしないで…

いかないで…


そう伝えようにも、僕はまだ「言葉」というものを知らないらしい。


だから泣いた。

僕の気持ちを伝えるために。


それなのに「この人」はただ僕を抱きしめるだけで…


「必ず、戻るから」


顔は見えないが、にっこりと微笑んだことは判った。

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