第96話

「久しぶり、朱里。元気にしてたか」


あぁ、黒炎くんだ。夢じゃない、ここに本物の黒炎くんがいる。私は嬉しさのあまり泣いてしまった。たった一ヶ月だったのに、寂しくて仕方なかった。こんなにも黒炎くんが愛しいなんて。


「うん、してたよ。黒炎くんこそ、元気に……っ、してた?」


本当は試練のことも、紅炎さんと二人きりで大丈夫だったとか色々聞きたいことがたくさんある。だけど、今は上手く言葉にできない。


「ああ、元気にしてた。……親父に認めてもらえた。朱里もそうなんだろ? 兄貴から聞いたんだ」


「うん、私頑張ったよ……!」


「……知ってる。会長にも手伝ってもらったんだろ? それについて親父が褒めてたぞ。人を頼ることも大切だということに気付けたのは感心したって」


私が知らない場所で、焔さんか紅炎さんに仕えてるメイドさんたちが見ていたんだろう。でも、やっぱりそうだったんだ。一人でやっていたら、恐らく達成出来ずにいた。だけど、紅蓮会長が手伝ってくれた。それで良かったんだ。私は間違ったことをしていなかったんだね。


「朱里、俺のために本当にありがとう。高校卒業まで、今の学校にいられそうだ。本当に頑張ってくれたんだな……」


頭を撫でられる。なんだか、このスキンシップも懐かしく感じる。……本当に良かった。すごく大変な思いをしたけれど、これで黒炎くんと一緒にいられる。


「どういたしまして。黒炎くんもお仕事お疲れ様。紅蓮会長にもあとでお礼を言わないとね」


「紅蓮会長って……名前で呼ぶようになったのか」


「あ、うん。手伝ってもらうときに色々あって……」


というか、あれは名前を呼ばなかったら手伝ってもらえなかったかもしれないと今になって思う。


「久しぶりに会えたっていうのに、俺以外の男の名前出すなよ。ほら行くぞ」


「ごめん。って、え?」


ヤキモチを妬いてくれてるんだろうか。紅蓮会長とは以前のように仲良くはなかったのだけど、黒炎くんがこの調子じゃ、また会長呼びに戻りそうだ。黒炎くんは急に私の腕を引っ張り、どこかへ連れて行こうとしていた。

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