第97話

「親父からのささやかなプレゼントだそうだ。最上階のホテルでクリスマス限定のディナーに宿泊もついてる」


「そ、そうなんだ」


本当に意外すぎるんだけど。私に感心して褒めるのもビックリしたけど、試練が無事に達成できたら今度はまさかのお泊り付きデートまで……これって、交際を認めてくれたんだろうか。


「お金のことは気にしなくていい。どうせ親父が経営してるホテルの一つだろうしな」


「ありがとう」


スタスタと黒炎くんの隣を歩く。人混みで、はぐれないようにとギュッと握られている手はさすがというか……やっぱり黒炎くんはカッコいい。


目的地に着くまでの間、まわりの女の子たちが黒炎くんを見て、黄色い声をあげていた。そりゃあ、これだけイケメンだったら多少騒がれても仕方ない気がする。けど、それにくわえて御曹司だったとかハイスペックすぎて私とはますます釣り合わない気がする。


「きゃ!?」


こんな私で本当に良かったんだろうか……と考えながら歩いていると、バランスを崩してしまう。


「あぶねぇ。朱里、なにか考えごとしてなかったか?」


「な、なにも」


あからさまにプイッと目をそらしてしまう。黒炎くんが私のことを好きなのは知ってるし、これだけのことがあっても別れようともせず紅炎さんとも向き合ってくれた。だけど、心配になったり不安になる気持ちは誰しもがあると思う。

黒炎くんにはそういうのないのかな。


「ほら着いたぞ。あとはエレベーターに乗って最上階に行くだけだ」


「うん」


私の様子が変なのをわかっているけど、決して触れようとしない。そういう気遣いが出来ることも黒炎くんのいい所の一つだと思う。


「……なんで自分なんかを好きになったんだろうとか思ってるだろ」


「え?」


エレベーターに乗ってる間、ふと黒炎くんは呟いた。やっぱりバレていたんだ。


「そうやって、自分を下に見るのはやめろ。俺は朱里を同等だと思ってる。むしろ、俺のほうが今回は下だと思ったぞ。一人だったら親父には勝てなかった……」


「そんなことない! 黒炎くんは強いよ。だって、こんなにも……にゃ!?」


私が最後まで言葉を言い終わる前に頬をつねられた。


「つまり、そういうことだ」


「ふぇ?」

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