第30話

「謝る相手は俺じゃないんだけどな。朱里、大丈夫か?」



はぁ〜と深いため息をつきながら、私のほうに戻ってきた。良かった、いつもの黒炎くんだ。

さっきは知らない人かと思うほど、黒炎くんが別人に見えた。



「私は大丈夫。けど良かったの? あんなこと言って」



「大切な幼馴染の陰口言われて黙っていられなかった、ただそれだけだ」



あんなこと言ったら敵を作るのは黒炎くんなのに、それでも私を庇ってくれたんだね。



「黒炎くん、ありがとう。私を助けてくれて」



私は今すぐ感謝の気持ちを伝えたくて黒炎くんにお礼を言った。



「どういたしまして」



「でも、少しだけ怖かったよ。まるで……会長さんみたいだった」



「そんなにか!? 優しく注意したつもりだったんだけどな。って、だから会長は」



「わかってるよ。会長さんもだけど、黒炎くんも優しくて素敵だよ」



「なっ……」



その瞬間、黒炎くんの顔が赤くなった。もしかして照れてるのかな? 男らしいだけじゃなくて、可愛い所もあるんだね。



さっきは少しだけ怖かったけど、私を守ってくれる黒炎くんはまるで童話に出てくる王子様みたいだった。



今日は黒炎くんの色んな表情が見れて幸せ。黒炎くんの意外な一面を知るたび、独り占めしたいなって思ってしまう。

だけど、はたから見たら私は平凡に見えるみたい。もっと女子力磨かないと! と改めて決意した瞬間だった。



「まって。なんで寄りにもよってここなの?」



カフェから出た私たちはある場所に来ており、私はビクビクしながら黒炎くんの服を掴んでいた。



「そんなに怖いんだったら、出るまでずっと掴んでていいから」



服を掴んでいた手をグイッとして、ギュッと手を繋いでくれる黒炎くん。



そう、私たちは今お化け屋敷に入っています。



「ギャーっー!!!!」



入ってそうそう大声を出す私。



「!? 朱里。お前の声に驚いた」



「ご、ごめん!」



だって、いきなり血だらけの人が現れたら誰だって驚きもする。それからというもの、足にガシッと掴んでくる手にどこまでも追ってくる女性らしきオバケに私の叫び声は声を上げる度にボリュームがあがっていった。



「朱里。大丈夫か」



お化け屋敷から出た私はベンチに座っていた。が、黒炎くんとまともに会話出来る自信がない。

吊り橋効果とかよく聞くけど、お化け屋敷だと恋は生まれない気がする。



「あんまり大丈夫じゃない……」



私がぐったりしていると、「俺の膝で良ければ貸すぞ」と自分の膝をトントンと叩いている。



黒炎くんは怖がってる様子がないから平気だったんだろう。それもそうか、自分から私をお化け屋敷に誘うくらいだし。



「お言葉に甘えて借ります。でも……」



「ん? どうした??」



黒炎くんは何も気にしてないみたいだけど、これ普通は逆な気がする。あと物凄く恥ずかしい。



突然何を言ってくるかわからない黒炎くんの発言には毎回ドキドキが止まらない。さりげなく服を褒めてくれたり、今みたいに膝枕してくれるし。



それに、さっきは私が傷ついてるのがわかったのか助けてくれた。それでも彼氏じゃない黒炎くんはやっぱり近いようですごく遠い。

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