第29話

遊園地の中に入るとすぐに、ぐぅーとお腹の音がなる。私は恥ずかしくなり、お腹を咄嗟におさえた。



「朱里は起きるの遅かったし、朝飯食べてないよな? まずは食事が先だな。朱里、誰だって腹は減るんだからそんなに気にしなくていいぞ」



そういって軽く流してくれた。黒炎くんはパンフレットを見ながら食事できる店を探してくれた。



「よし、ここにするか!」



どうやら決まったみたいで、手を握るとすぐさま走り出した。



「ちょ……! 黒炎くん!」



走らないで! と思っていたが、黒炎くんにはそれは伝わっていない様子。



あの一件以来、ほんの少しだけ距離が近づいた。

黒炎くんもちょっぴり心を開いてくれたのか、今では普通に触れてくれるようになった。



だけど、幼馴染という立場は変わらなくて。それでも黒炎くんが楽しそうにしてくれるのなら今はそれでいいやと思う私もいた。



「やっぱり可愛くて美味しい店がいいよな。朱里、ここなんかどうだ?」



それはウサギがモチーフとされてるお店。外観から可愛いウサギで飾られている。



「わぁ〜! 可愛い!」



「朱里はこういうの好きだろ?」



「どうして、そう思うの?」



「小さい頃ずっと一緒だったんだ。朱里のことなら何でもわかるぞ」



「……」



黒炎くんは嘘つきだ。肝心なことは何一つ理解してないくせに。やっぱり鈍感なんだね。でも、幼馴染の私だからこそ気を遣って優しく接してくれるんだよね?



だったら、もし幼馴染という枠から外れてしまったら私は黒炎くんにとって何になるの?



「ん〜、美味しい!」



私たちは店内に入り食事を楽しんでいた。

店内はウサギのぬいぐるみや雑貨などで可愛く飾られている。



ちなみに、私が頼んだのはチョコペンで可愛いウサギが描かれたパンケーキ。

黒炎くんはチーズハンバーグ。チーズがウサギの形になっている。



まさに女子力高めのカフェって感じ。

女子高生や女子大生で溢れる中、黒炎くんは凄く目立っていた。



「あの黒髪の男の子、超イケメンじゃない!?」



「だよね! 私もそう思った!」



「隣にいるのって彼女? なんか地味ー」



黒炎くんのことカッコいいって言われるまでは良かったんだけど、そのあとコソコソ話をしながら、こっちを指差しながら見てくる女性客。



なんか嫌だなぁ。せっかくの美味しい料理が台無し。



私はテンションが下がり、黙々と食べていた。

ボーッとしていると、黒炎くんが居ないことに気付く。どこに行ったんだろうと、ふと辺りを見回すと、黒炎くんはなんと女性客の席の前に立っていた。



「人の陰口を言うのはいけないと思います。しかも、指を差すなんて。せっかくの美人が台無しですよ?……それと俺の大切な人になにか?」



黒炎くんは相手が年上でも臆する事無く、私の陰口を言っていた女性客に怒っていた。

怒っていた、というよりは注意に近いのだけど。



それは今までに見たことないような冷たい作り笑顔。私自身も思わずゾッとしてしまうほどに威圧感を感じてしまった。



「す、すみませんでした」



黒炎くんの発言が怖かったのか、静かな殺気を放ったのに恐れたのか、女性客は謝った後すぐに店をそそくさと出て行った。


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