第18話

「っと、ここまででいいか?」


「あ、うん! 送ってくれてありがとう」


「途中までしか送れてないし、むしろ申し訳ないって思ってる」


そこまで気を遣わなくても大丈夫なのに。私の鞄を返そうとするとピコン! と黒炎くんのスマホの音がなった。


「‥‥GW中にも勉強会するなら連絡先教えておかないとな。よし、これでいいだろ。朱里。またな!」


「うん、また明日」


鞄と同時に渡されたのは一枚の紙。そこには携帯電話とメールアドレスが書かれていた。


(これって‥‥)


私は今日黒炎くんの連絡先を知ることが出来ました。今なら羽が生えて空まで飛べそうな気がする。外だからあんまり大きな声で叫べないけど、内心はめちゃくちゃ喜んでいた。


だけどスマホ見て、黒炎くん慌ててたなぁ。

アカリちゃんから早く帰ってきてメール? のわりになんだか冷や汗が出てた気がする。

一体、誰からのメールだったんだろう。


私は寄り道厳禁という会長さんの言葉を思い出し、その日は真っ直ぐ家路に向かった。


☆ ☆ ☆


「黒炎くん、おはよう」


GW初日。図書室の扉を開けると机に頬杖をつき、私のことを待っている黒炎くんがいた。


朝ということもあり、日光が差し込んできて黒炎くんがいつもより一層キラキラして見えた。


「朱里、おはよう。ちゃんと早起き出来たんだな」


「う、うん。なんとか早起きできたよ」


いつもと変わらないはずなのに、どうしてだろう。こんなにもドキドキするのは。私は寝癖が気になって自分の髪に何度も触れる。


だって今日は‥‥


「今日は髪おろしてきたんだな。なんか新鮮だな」


「!」


気付いてくれた! 凄く嬉しい。けど、「アカリもたまに髪おろすときあってさ〜!」とアカリちゃんの話題を振られると、とたんに幼馴染という現実に引き戻された気がした。


「えーと、ここは‥‥こう?」


「ああ、正解だ」


「やった!」


勉強会を始めると私は問題を真剣に解き、正解した。正直、黒炎くんの教え方はかなり上手かった。


もしかしてアカリちゃんにもこうやって教えてるのかな? なんて考えると少し複雑な気持ちになる。

けど、今はこうして図書室に二人きりなのだから、この時間を楽しまなきゃ!


勉強は嫌だけど、好きな人と過ごす時間はあっという間に過ぎていった。午前中という限られた時間なのが悔しい。本当はもっと黒炎くんと一緒にいたいのに。


「今日はお疲れ様。今詰めすぎるのも良くないって言うし、家に帰ったらゆっくり休めよ」


「うん。黒炎くんも勉強教えてくれてありがとう。すっごく、わかりやすかったよ!」


「ホントか? それなら良かった。だけど、お礼はテスト結果が出てからな。明日は用事があるから明後日でもいいか?」

 

「大丈夫だよ! せっかくのGWを毎日勉強会っていうのもなんだか申し訳ないし」


黒炎くんのいう用事ってアカリちゃんとデートかな? と一瞬、頭をよぎったが言葉には出さなかった。それを言ってしまえば黒炎くん大好きのアカリちゃんトークが目に見えて想像出来るから。


私は「また明後日ね!」と言って学校を後にした。


それから2日に1回くらいの頻度でGWは勉強を教えてもらい、平日は黒炎くんが放課後に空いている日に勉強会をした。

そのかいあってか、初めての中間テストではそれなりの成績が取れた。


この学校は成績が学年50番以内の生徒は名前が教室前に貼り出される。ちなみに黒炎くんは学年3番だった。


まぁ、私はそれなりだから当然のように50番以内に名前は載っていない。偏差値が高い高校でこんなに良い成績が取れる黒炎くんってやっぱり凄い! 


黒炎くんの成績を知ったファンクラブの数はその日を堺に増えていったことを当の本人は知らない。

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