第10話

* * *


翌日、私は眠たい目を擦りながら学校へと向かった。


(ここで黒炎くんと再会したんだよね……)


再会したときは、運命だって思った。


“初恋は叶わない”って、どこかで聞いたことがある。

今なら、その理由がなんとなくわかる気がする。


昨日は、綺麗に見えていた桜の木も、なんだか今日は色褪せて見えた。

だけど、満足するまで泣いたせいか、今は少しだけ心が落ち着いている。


(こんなにネガティブなことばかり考えちゃダメだ、私!)


気持ちを切り替えなくてはいけないと私はパシッ! と自分の頬を叩いた。


「なんか人が多いな……」


今日は早めに登校したはずなのに、校門付近には、女子たちが集まっていた。


今日はなにかのイベント? と思いながら進むと、そこには黒のロールスロイスが停まっていた。


すると、中から制服を着た男の子が出てきた。

ネクタイの色からして、2年の先輩だ。


「行ってらっしゃいませ」


スーツ姿の女性は、深いお辞儀をして、男の子を見送る。


まさにお金持ちってオーラが溢れている。

一部ではお金持ちが通ってるって噂、本当だったんだ。


女子たちは、そんな男の子を見て黄色い声をあげる。

男の子は表情一つ変えることなく、女子の集団をかき分けながら、学校へと入っていく。


(私とは住んでる世界が違うなぁ)


私が関心していると「朱里、口開いてるぞ」と横から声をかけてくれた黒炎くんがいた。


「え!? ……お、おはよ、黒炎くん」


もしかして私、今アホな顔してた? 


だって、あんなの見せられたら誰だって驚いて当然だよ。


しかし、昨日の今日で、なんとなく気まずい。


でも、黒炎くんから挨拶してくれるだけで嬉しいと思う私もいた。

あぁ、私ってなんて単純なの。


「黒炎くん、あれって先輩だよね? 朝からすごく目立ってるよね。

でも、先輩も運転手さんも美形だったね!」


気まずい空気と、私のアホな顔を早く忘れてもらうようにと、とっさに話を振る私。


「あれは……」


「?」


「いや、なんでもない。遅刻するぞ」


「う、うん!」


黒炎くん、昨日と同じ表情をしている。

どこか遠くを見ていて、なんだか寂しそうな顔。


小さい頃は、そんな悲しい顔見せなかったのに。

やっぱり、なにかあったんだよね?


* * *


教室に入ると、黒炎くんはまたしても囲まれていた。

すっかりクラスの中心で、人気者だ。


でも、本当はギャルゲーオタクなんだけどね。


私だけが知っている黒炎くんの秘密。

……アカリちゃんは知っているんだろうか。


私以外の女の子が黒炎くんのことを知ってると思うと、胸が締め付けられそうになって、とても苦しくて、痛い。


……私だけが黒炎くんの全てを知っていたいのに。


そしたら、どんなに幸せだろうか。


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